若隠居とドラジュ星(2)
その大ミミズは、土に顔を出しては白っぽい砂を吐き出すと、再び土の下に潜り込んで姿を隠してしまった。
「ドラジュ星人はこの岩を食べるんですけど、幻獣がああして岩を食べられない砂に変えてしまうので困っているそうですよ。それに、近付いたらドラジュ星人も飲み込まれて命を落としてしまったそうですが、どこに潜んでいていつどこの地表に現れるか予測もつかないようで、打つ手がないらしいです」
ハルヤが大ミミズが消えた地表を見ながらそう説明した。
「うわあ。岩そっくりな見かけなら、そういう危険もありそうだな」
幹彦が気の毒そうに言う。
「この惑星中を開墾される前にどうにかしないとね」
「うむ。ところで話は変わるが、ここに美味しい肉はいるのか」
チビがキリッとした顔を向けて訊くと、ハルヤは目をしばたかせた。
「おいしい、肉?」
そしてその問いに、笑ってエレが答える。
「ははは! 流石でんな、頼もしいですわ。せやけど残念ながら、ここにおるんは岩そっくりなドラジュ星人のほかは、アメーバとか細菌とかしかおらへんで」
チビたちの肩がしょぼんと下がった。
「でも、珍しい鉱石があるんですよ。ドラジュ星人が岩を食べて出す鉱石で、柔性があってとても強く、熱にも強いんですよ」
「へえ。ドラジュ星人の体内酵素とかが関係しているのかな」
おもしろいな。
幹彦も目を輝かせている。
「へえ。それって鍛冶に使えそうじゃねえか」
チビたちはさほど興味を持てなさそうだが、マルが、
「あ。そう言えば、肉ではないですけど、地下に昔は地表に生えていた植物の実が残っているんですけど、これが発酵したものが珍味とか呼ばれているらしいですよ。滅多に見つからないらしいですけど」
と言った途端、目を輝かせた。
「珍味だと」
「どんな味でやんすかねえ」
「発酵だしの。味噌のようなものかの」
「コチュジャンー?」
「それなら焼き肉に合うな」
「ぜひ、欲しいでやんすね」
「うむ」
もの凄くやる気になったらしい。
僕と幹彦はその様子に苦笑しながらも、珍味に興味はある。
「見つかったら、少し分けて欲しいな」
「よし。交渉してみようぜ」
僕たちのやる気は一気に膨れ上がった。
そうしている間にも、シャイニングアロー号は地表のドラジュ星人の基地らしき所に降り立った。
滑走路に岩がたくさん転がっているようにしか見えないが、それはドラジュ星人たちだった。よく見ると短い腕と足が付いていた。
簡易重力コントロール装置をオンにし、ハルヤとエレとマルは呼吸器をつけ、僕たちは魔道具に魔力を流して作動させ、ドラジュ星に降り立った。
「ようこそ、ドラジュへ」
ドラジュ星人がそう言って体を揺らした。これが挨拶なのだろうが、見ている方にとっては、岩がグラグラと揺れているようにしか見えず、危なっかしい。
しかしそれをおくびにも出さず、にこやかに挨拶をする。
「はじめまして。地球から来ました、周川幹彦です」
「はじめまして。麻生史緒です。こっちから、チビ、ピーコ、ガン助、じいです。よろしくお願いします」
顔色や表情がエレたち以上にわからないので、向こうがどう思っているのか全くわからない。
通り一遍の挨拶をしながら基地の建物の奥へと移動し、会議室へと入る。
イスは背の低いビーズクッションのような形をしていて、ドラジュ星人はそこに器用に腰掛けた。僕、幹彦、ハルヤには低いが、エレやマルにもちょうどいい高さだったし、チビたちも居心地良さそうにイスに収まっている。
「これがドラジュ星の地図です。そして、幻獣が現れた三日前からの、幻獣が姿を現した場所です」
大きな地図が壁に投影されており、そこに、丸印が付いていく。全部で五つだった。
「ふうん。場所も飛び飛びで、確かに規則性が見当たりませんね」
ハルヤがううむと唸って言うと、ドラジュ星人たちも重い溜め息をついた。
「ええ。幻獣に攻撃が通用したこともないし、逃げようにも、いつどこに現れるかもわからないとなれば……」
「はあ。お手上げですよ。何とか、頼みます」
ドラジュ星人たちは揃って、体を倒して頭を下げた。
「何とかしてみましょう」
魔力を感知してそこに急ぐ、と言っても、地下深くにいるときは魔力感知も難しい。感知できたときは、すぐ後に幻獣が地表に顔を出すときということになりそうだ。そうなると、離れた場所だと間に合わない。何か手がかりが欲しいものだ。
「幻獣は地下を移動しているとき、何か、地下の空洞を利用しているとかいうことはないですか」
それにドラジュ星人たちは体を横に揺らして考えてから答える。
「それらしいものは……なあ」
「思い当たらんなあ」
するとチビが、立ち上がりながら言った。
「とにかく、ちょっとその場所を見て回るか。何かわかるかもしれんぞ」
「パトロールにもなるでやんすしね」
それで僕たちは、シャイニングアロー号でその出現地点を見て回ることになった。




