若隠居と宇宙の旅の始まり(2)
宇宙船はもの凄く速いスピードで進んでいるのだが、実感は全くない。何と言っても景色が変わらないのが原因としては大きいだろう。
それに、まるで自宅にいるかのように振動もない。停まるときには負担がかかるので、イスに座ってジェルで体を固定する必要があるが、それ以外では自由で、快適そのものだ。
「うむ。このシャイニングアロー号は最高だな」
シャイニングアロー号というのは、せっかくのマイUFOなので名前を付けようと、チビたちが相談して決めたのだ。
「今後も乗り回したいでやんすね」
チビたちは柔らかくもしっかりとしたイスに座って満足そうに言う。人工工学的に体にフィットする形状らしいので、座り心地がいいのは当然だ。このままこのイスに何時間でも座り続けられそうだ。
その最高の座り心地のイスに座り、僕たちは操縦をオートパイロットに任せ、映画を見ていた。もちろん、ジュースとポップコーンはチビたちのリクエスト通りに出しており、エレとマルはジェルのおやつだが、それ以外の皆には好評だ。
「いやあ、映画館の座席もこのくらいだと最高にリラックスして見られるのになあ」
「この座席、いいよね。部屋のデスクのイスをこれに変えたいよ」
僕と幹彦は半ば本気で、誰にどう交渉すればいいのかと考えた。
「シャイニングアロー号を今後ぷらいべーとじぇっとということにできれば、飛行機での移動が楽になるのう」
「中古ってことで買い取りできないかなー?」
皆は口々に言いながら、エレやハルヤをじっと見つめた。
「勘弁してえや。わいには返事でけへんさかい」
「すみません」
エレとマルが言い、ハルヤを「パス」とでもいうように見る。それでハルヤは慌てた。
「ちょ、待ってくださいって。無理言わないでくださいよ。地球の科学力に合わないものを持ち帰らせるわけにはいきませんから、許可は下りないはずですよ。いじわるじゃなくて」
ピーコががっかりしたように下を向くのに慌てたようにハルヤは言った。
人がいいなあ。そして、小動物が好きらしい。あまり彼をいじめるのも申し訳ない。
「仕方が無いよ。大体、どこに駐車しておくの? うちのガレージには入りそうもないし、そもそも、新車だと言い張って通るはずもない形だしね」
苦笑して言うと、けろりとチビたちは答える。
「まあ、言ってみただけー」
「うむ。残念だが人間の世界は面倒だからな」
「今のうちに楽しんでおくでやんすね」
「そうじゃの。いい冥土の土産になるのう」
幹彦も苦笑して言った。
「写真も残せねえのは残念だけど、まあ、仕方ねえしな。後々大騒ぎになっても面倒だしな」
「そういうわけなので、お気になさらず。でも、できればこのイスが欲しいですね」
一言付け加えると、ハルヤ、エレ、マルはちらりと顔を見合わせ、大きく嘆息した。
「一応上に言ってみますね」
「口添えはしといたるで」
「はい。決めるのは上ですので」
それに僕たちは、満面の笑みを浮かべ、
「お願いします」
と言った。
UFOをくれというよりは通りやすいはず。
そうして和やかなムードで、僕たちはホレイという惑星に向かっていた。
ここの住民は犬のような姿をしているらしく、チビに合う座席はホレイ星人のものだったらしい。
犬のような姿といっても、どの程度だろう。本当に犬のように四つ足なんだろうか。それとも犬の獣人である犬人のようなものだろうか。
僕たちはわくわくしながら、ホレイに着くのを楽しみにしていた。




