若隠居と宇宙の旅の始まり(1)
僕も幹彦も、自動車を持っていない。
なのに借り物ではあるし自分で運転はできないが、マイカーならぬマイ宇宙船ができてしまった。
「自分で操縦できたらなあ」
運転席を見たが、さっぱりわからない。エンジンキーとかブレーキとかアクセルとかクラッチとか、そういう感じじゃない。ヘリのコクピットを見たことがあるが、あれほど色々なレバーやら計器やらスイッチがあるわけでもない。ものすごく複雑なものが、高度に発展して洗練されたために却ってシンプルに収まったのだろうな、と予想されると言えば、わかってもらえるだろうか。
「操縦は任せておくんなはれ」
そう張り切るのはエレだ。
ここまで僕たちを連れて来たきっかけがエレとマルなので、このふたりは僕たちにつける、ということになったのだ。そしてエレは、操縦が上手いらしい。本人曰く、出身地である田舎の方では惑星の周囲にデブリがたくさんあって、その中を突っ切って競争するレースが盛んだったそうで、エレはその中で腕利きだったらしい。
「最新鋭の新型機ですよ! うわあ、中古の中古になってからでしかまわってこないと思ってたのに!」
マルも嬉しそうに機体をなでさすりながらうっとりとしたように言う。
もしかして、スエレ星人やホワム星人は飛行機(?)好きなのだろうか。
「なんでオレが……」
反対に軽く嘆息するのはハルヤだ。
僕たちと同じヒューマンタイプだし、未開地惑星の原住民に対しても差別意識などもないということで、同行者に選ばれたのだ。
「いやあ、これからよろしくな!」
「よろしくお願いします」
言うと、エレ、マルは笑ってうんうんと頷き、ハルヤは仕方が無いという顔で渋々返事をする。
「……よろしくお願いします」
僕たちの要求のひとつ、方々へと行くための手立てが、このUFOとこの三人だ。
水や食糧、UFOの燃料、その他の物資については、先々で宇宙連合の軍や政府に立ち寄れば協力してもらえることになっている。
それと、倒した幻獣は基本的に僕たちがもらうことになった。まあ、研究が全くされていない生物だし、利用できる部位もあると思うので、その場合には要相談、ということになる。
因みにチビたちは内心で、「肉は渡さん」と思っていたそうだ。
それから、各惑星にも観光がてら寄らせてもらいたいと言ってある。船内では好きに料理もできないし、その惑星の植物や動物で美味しいもの、名物があれば、是非食べたいと思っている。いや、絶対に食べてみたいと切望している。
「これが操縦室のイスか。安全ベルトはないのか」
言いながら座ったチビだったが、ジェルが出てきて慌てて手足を振り回した。
「何かスライムみたいなものが出てきたぞ!?」
それにエレが笑って言った。
「戦闘や高速移動のときに使う、ショックを緩和するためのもんですわ。引いたあと、べたつきもあらへんし、心配いらんよ」
言いながら何か操作するとジェルは座席の下へと引いていったが、その言葉通り、チビの毛は濡れてもいなかった。
「犬型の生命体がいるところから急遽取り寄せたんですが、間に合ってよかったです」
にこにことマルが言い、続けた。
「ピーコとガン助とじい用のシートは準備できなかったんですけど、ガン助とじいは水中タイプの種族がいますので、水槽を準備しました。水がジェル化しますので、岩のくぼみに座って顔を水面に出すようにしてください」
チビのとなりにある水槽はそのためだったらしい。
水槽の隣には、深くくぼんだ箱、という感じのものがあった。ピーコ用だろうが、どういう使い方なのだろう。そう思っていると、そのくぼみにピーコがぴょんと飛び込んだ。
「そうそう、そこに座ってや。ジェルが出てきて体を覆うさかいにな」
「わかったー」
操縦席の機長席にはエレ、右隣にマルが着き、左隣にハルヤ、その後ろに僕と幹彦、その後ろにチビたちとなっていた。
周囲に窓はないが、前、横、後ろの壁、天井、床が全面スクリーンになるそうで、宇宙空間に生身でいるかのような視界になるらしい。
このほかに、トイレ、調理場、シャワールーム、談話室、ベッドルームが二部屋あった。ベッドルームは僕たちと宇宙人とに分かれて使うことになる。
「食糧は何だ」
「ホワム系人は水とパック入りのジェルや。積んできたけど、これはわいら以外には受けが悪いよってなあ」
エレが言ってマルと肩を竦める。
「現地でいつも調達できるとも限らないので一応こちらも準備しました。オレたちヒューマンタイプと地球人は同じものと考えていいらしいから、缶詰やレトルトやフリーズドライのレーションを。あと、犬型の生命体の食料や木の実を積んできましたよ」
ハルヤはそう言いながら、これでいいんだよな、と言いたげに僕と幹彦を見た。
「うむ。基本的に星に降りて肉を狩ることになるがな」
「美味しいのがいると嬉しいー」
「そうでやんすね」
「楽しみじゃの」
「調味料も準備万端だしね!」
「さあ、行こうぜ! まだ見たことのねえ新しい食糧調達の旅!」
「……ええっと、幻獣対策の旅ですが……」
「あ、もちろんだぜ。なあ」
「そうそう。忘れてませんよ、ええ」
僕たちは「いやだなあ」と笑い、そうして宇宙キャンピングカーこと宇宙船は出発した。




