若隠居と幻獣(3)
宇宙空間は、底なしで果てがなかった。その上、いくら魔道具で地上と同じように動けると言っても、やはりどこか違和感がつきまとう。
「おもしれえ!」
「空中回転できるぞ! ほれ!」
しかし幹彦やチビたちは大喜びだった。
「危ないよ、もう」
「すまんすまん」
幹彦たちは笑ってそう言い、魔道具に魔力を込めて幻獣を見た。
「見れば見るほど魔物だな」
「うむ。魔力も感じられるし、間違いないだろう」
「丸焼きー?」
「水攻めかのう?」
「岩を口の中に叩き込むでやんすか?」
皆やる気に満ちあふれ、気後れや恐怖は感じていないらしい。
「頼もしいよ」
「作戦はどうする? あの障壁がくせ者らしいぜ。宇宙空間だし、きっと体表も丈夫だろうしな」
幹彦が言いながら、ゆったりとした動きで近付いて来る幻獣を見て言う。
「それでもサラディードに斬れないことはないと思うし。まずは魔術障壁を解除しないとね」
「どうするのだ?」
「こうしてみよう」
右手の人差し指を伸ばして幻獣に向けると、集束魔術を放つ。
細くてまばゆい光が一瞬で伸びていって幻獣に到達すると、その手前でパアッと光が散った。
これまでのビーム攻撃でも見たのと同じだ。
「じゃあこっちだ」
中に爆破の魔術式を込めた魔力弾を撃ち込む。
するとそれは障壁に当たると光を放ち、そこから幻獣を取り巻くように光は伝染していった。
「障壁は壊れた! 今だ!」
「任せろ!」
幹彦とチビはすぐさま飛び出していき、ピーコ、ガン助、じいは攻撃を止めずに、障壁が再び張られる隙を与えないようにする。そうしている内に幹彦とチビが幻獣に辿り着いた。
あまりに広い宇宙だし、周囲に距離感を掴むようなものが無いために目測を誤り、思ったよりも遠かったと聞くのは後の話だったが。
「邪魔な尾だ。そう振り回すでないわ!」
チビが前足を一閃させて爪で尾を切断する。
「その攻撃はもうさせねえよ」
幹彦はのたうつ幻獣の首をサラディードで斬り付ける。
幻獣は口から炎を吐こうとしていたがそれは不発に終わり、頭と胴体が離れた瞬間、その切断面から炎が漏れた。そして、ぐったりとして動かなくなった。
「仕留めたね」
その頃には僕たちも幻獣のところに辿り着き、皆でしげしげと幻獣の死体を見た。
「これは……食えるのか?」
「焼けた断面はステーキになってるよー」
「中はまだ生でやんすよ、たぶん」
「肉も硬いのかのう?」
チビたちの関心はやっぱりそこかと、僕と幹彦は苦笑した。
でも僕も、これが気になって仕方が無い。
「回収しよう。食べられなくても、何かしらの役に立つよ。たぶん」
そう言って、僕たちは手分けして死体と散った血液などを回収し、バッグや空間収納庫に詰め込んで艦に戻った。
「ただいまー」
「これを焼いてくれ!」
「味見でやんす!」
「塩とタレの両方にしてくれんかの」
マイペースなチビたちとそれを呆気にとられたように見るエレたちを見比べ、僕と幹彦は思わず笑い出したのだった。
早速肉を焼いてみようと思ったが、それよりも、初めて幻獣の死体が手に入ったというので彼らは驚き、舞い上がり、是非研究のために譲ってくれと頼まれた。
その事情はよくわかるので、味見に少しだけ取り分けてもらい、それ以外を進呈することとなった。
しかしエレたちホワム星系の人たちは合成したゼリーのような食事を摂るので、肉を焼いたりするような設備はどこにもない。しばらく空間収納庫に保管しておいて後で食べるほかないようだ。
残念そうにする僕たちに、こそこそと話し合いをしていた艦長がこう言った。
「研究施設はライマウリにあるので、幻獣を届けてもらえませんか。それに地球人と同じつくりのライマウリ星系の艦がそこにあるので、あなた方にはそちらの方が過ごしやすいはずですし、調理もできるでしょうし」
僕たちは一も二もなくそれに飛びついた。
ほかの宇宙人にも興味はあるもんね。
そうして僕たちは、エレとマルと一緒に再び艦載機に乗り込み、別の艦目指して発艦したのだった。




