若隠居の宇宙への旅(3)
宇宙は広い。海でさえも広いと思うのに、それ以上だ。比べることもできない。
「日本列島だ!」
「おお……! 本当に、列島の形に光が並んでるな」
日本列島を縁取るように町の灯りが並んで、はっきりと日本の位置がわかる。テレビで見たまんまだ。宇宙飛行士でもないのにこれが見られるなんて思わなかった。
「しかし、宇宙というのはあれだな。奥行きがよくわからん」
チビがそう呟くように言う。
窓から見た宇宙空間は広すぎるのが原因か遠近感もおかしい感じだ。
しかも、UFOの中では床に足が着くように重力を発生させているらしいが、船外だとそうはいかない。上下がよくわからず、平衡感覚がおかしくなるだろう。
「宇宙ってやっぱり、訓練してから来るところなんだねえ」
「そうだな」
僕と幹彦はそう言い合いながらも、離れて行く地球とその影に隠れていく月を眺めていた。
「月が黄色くないー」
ピーコたちはそれにややショックを受けているようだ。まあ、空気を通して見た月の方がきれいなのは認める。
「ほな、そろそろ母船に向かってスピード上げまっせ」
エレはサービスとして、地球や月をゆっくりと見られるようにスピードを落としてくれていたらしい。
「ありがとう。よろしくお願いしますね」
「任しとき!」
エレは機嫌良く答え、パネルに並んだレバーやスイッチを操作して、それでグンッとUFOは加速した。
「おお! 加速しても体に負担がかからないんだな! 凄えな!」
「こんなの、軍需産業も航空産業も自動車産業も知りたがる技術だよね! でも、たぶん理解も使いこなすこともできそうもないけど」
それにエレとマルは短く笑ったあと、申し訳なさそうに言った。
「まあ、それが理解でき、開発できる程度の科学力を持つようでないと、未開惑星というランクからは脱却できないんですよ。教えるのはもってのほかですし」
「いや、それが正しいですよ。これを知ったらその技術力を欲しがる国はたくさんあるけど、ろくでもない戦争の道具にするのが目に見えていますしね」
「そうそう。嫌だねえ、全く」
幹彦もそうぼやいて嘆息し、僕も苦笑して、窓の外に目を向けた。滅多に見られない景色だ。よく見ておきたい。
とは言え、街中を走る車とは違い、地球が見えなくなるとほぼ暗い宇宙空間ばかりとなり、どの方向へどのくらいのスピードで進んでいるのか、いや、進んでいるのか止まっているのかすらわからなくなった。
窓の外の景色はほぼ暗い宇宙空間で、遠くの方に時々惑星や衛星が「そうかな」と思える程度に見えるくらいで、だんだん飽きてくる。
完全に飽きる前に、マルが明るい声を上げた。
「ああ、もう着きますよ」
言われて正面のモニターに目をやると、ドラム缶型の金属の塊のようなものが映っていた。
「大きい、んだろうな」
幹彦が声を上げると、エレが楽しそうに答える。
「近付いたらようわかりまっせ。そうでんなあ。この船が格納されているところだけでも、これが百機はありますねん。その格納庫は全体の何十分の一って大きさですさかい」
僕たちはどんどんと大きくなっていくその母船に目を釘付けにしながら、
「ほおお……!」
と感嘆の声を上げていた。
UFOがつるりとした母船の横にできた入り口に滑り込むと、ふわりと、制動がかからないほど滑らかにUFOは止まった。
「お疲れさん。ようこそ、わてらの船へ」
「歓迎しますよ」
エレとマルがそう言い、僕たちは宇宙人に招かれたという実感がやっと湧いてきたのだった。




