若隠居と闘牛士(6)
「助けてくれ!」
レオの叫ぶような懇願の声に、僕たちは一歩踏み出した。
「こいつの皮はかなり固いようだぜ。まあ、サラディードの敵じゃねえけど」
「そうだな。ここは、我々もこのスタイルに合わせるのはどうだ」
「いいね。じゃあ、最初は僕とじい、次にチビとピーコとガン助、最後に幹彦でどうかな」
「よし、それでいくか」
チビがうきうきとして言い、幹彦やピーコたちも、
「おう!」
と返事をする。
そうしてキメラと僕たちとの戦いが始まった。
まず僕が薙刀で横腹に斬り付け、じいが水弾を反対側から叩きつける。
次に、ピーコがキメラの背中に火の矢を突き立て、ガン助は曲射で岩を背中に叩きつけ、チビはキメラの背中をピョーンと飛び越えながら氷の槍を突き立てる。
そして最後に、幹彦はすれ違いざまにサラディードを首に一閃させた。
キメラは走り抜けて数メートル先でスピードを緩め、首をゴトリと落として横倒しに倒れた。
「ふう」
「チビ、凄いでやんす!」
「ムササビみたいー」
「かっこいいのう」
「俺もやってみてえ」
「凄いなあ。タイミングとか色々難しそうだねえ」
チビは、記録映像で見たこの技を試したくて仕方がなかったらしい。
「ふふん」
「もっとやりたいー」
「どこかに牛はいないでやんすか」
「次は別の役割でもやってみたいの」
チビたちはこの遊びが気に入ったらしい。
「ああ、でもこれだと肉が獲れないよ」
「そんなもの、肉用にはきれいに倒し直せばいいだろう」
チビが当然のように言うと、その通りだとピーコ、ガン助、じいが頷いて見せた。
「まあそうだけど……ああ、幹彦まで」
闘牛ごっこをやりたいのは幹彦も同じだったらしい。まあ、僕もやりたくないわけじゃないけど……。
「あ!」
グロリアのことを思い出した。
「大丈夫ですか」
声をかけるが、彼らは目を丸くして呆然とこちらを見ていた。
そして、マテオが噴き出すのをきっかけに、皆笑い出した。
「俺たち、まだまだだったな」
「ああ。闘牛スタイルでやるのはいいけど、それにとらわれてたか」
「役目か」
マテオは寂しそうな笑みを浮かべたあと、肩の力を抜いた。
「そうだったな」
レオは小さく溜め息をついた。
「俺たち、まだまだだな」
「ケガがないだけでもめっけもんだろ。また挑戦できる」
そうして、彼らは顔を見合わせ、笑った。
彼らを入り口まで送ったあと、僕たちは改めて、再び牛を探しに行った。
なぜか? 闘牛ごっこをするためである。
「いいぞ、フミオ!」
「離すよー」
牛の魔物を魔術で押さえつけておいて、準備ができたら放つ。
今度は、まず幹彦の飛剣とガン助の岩が牛の魔物の横腹にヒットする。次にじいの水弾とピーコの火弾とチビの氷弾が背中に叩きつけられ、最後に僕の爆破の魔術を込めた魔力弾を叩き込む。
それで牛の魔物は爆散し、魔石と肉を残した。
「肉ー」
「幸先がいいのう」
「次も肉だと嬉しいでやんすね」
「よし、どんどんいくぞ!」
そうして僕たちは役目を入れ替えて、闘牛ごっこに励むのだった。




