若隠居と異星人(2)
砂のせいで目も開けられず、何も見えない。
しかしわかったことがひとつだけあった。
「魔素があるよ」
「ダンジョンか」
「移動する隠蔽型ダンジョンかもしれんぞ」
ラドライエ大陸で入ったことがある。何かに隠されていつもは見えず、移動するという不思議なダンジョンだった。
「ダンジョンの中に取り込まれたようだぞ」
チビが言い終わるとすぐに、砂嵐は消え、馴染の、魔素に満ちた空間にいることに気付いた。
「間違いねえな。ダンジョンだぜ」
僕たちは油断なく周囲を見回した。
そこは草木の生える林の中で、僕たちの車もUFOも見当たらない。少し離れた所に困惑したようにキョロキョロしている三人の宇宙人もいた。
「こういう隠蔽型の移動式ダンジョンは、時々外の生き物を取り込んで養分にするだけの比較的大人しいダンジョンが多い。これもそうとは言い切れんがな」
チビは言いながら、辺りを警戒するように鼻をうごめかした。
「今度いつ遭遇できるか、そもそもできるかどうかも怪しいんだし、ここはやっぱり、探索するしかねえよな」
幹彦はわくわくとしている。
「うむ、ぜひ行こう」
チビは尻尾を盛大に振って、賛成した。
それで出発しようとしたところで、背後から甲高い叫び声が聞こえてきた。
「何だ、この生き物は!?」
「全身緑色やし、これまでに確認したことのない生物やで」
「どうなっているんでしょうね!?」
宇宙人だ。ゴブリンと向かい合い、わめいていた。
「へえ。宇宙人の言葉もわかるんだ」
僕は少し感動した。
「でも、一人、関西弁じゃねえ?」
幹彦は胡散臭そうな目を向ける。
「あやつらの中でも、方言なのかもな」
チビはあたふたとする宇宙人を見ながら言った。
「翻訳されて聞こえているだけとは言え、関西弁を喋る宇宙人かあ。何と言うか、がっかりだぜ」
「うん。コントみたいだね」
宇宙人もゴブリンも、どちらも小学生程度の身長しかない。それが、小学生が宇宙人とゴブリンに扮してコントをしているように見えてくる。
ゴブリンは、ヒトの形をしているということに対する忌避感があるが、それを除けば、初心者が挑みやすい魔物だ。
「大丈夫かなー」
ピーコが首を傾げて言うのに、答える。
「大丈夫だろ、たぶん。それなりに訓練もしてここに来てる宇宙人だろうし」
「そうだね。ああ見えて、ほかの惑星を調査する仕事をしているんだから大人だろうし」
「うむ、そう言えばそうだな。UFOで宇宙を旅してほかの惑星へ行くほどのやつらだ。きっと武器も凄いものだろうしな」
チビが言って、皆でうんうんと頷いてうろたえる宇宙人とにじり寄っていくゴブリンを見ていたが、思い出した。
「あれ。そう言えばダンジョンの中って科学的な物は使えないんだよな」
何を今更、というような顔を幹彦が浮かべ、そうしてはっとしたような顔になる。
「あ、宇宙人って技術力は凄そうだけど、それが役に立たないってことか」
「うん。ゴブリンと同じくらいの身長で、ひょろひょろで、あのうろたえようだよ」
僕たちは宇宙人とゴブリンを、食い入るように見た。
「あかん! 銃が撃たれへんがな!」
ひとりが叫ぶと、もうひとりが逃げ腰になりながら命令した。
「どうしてだ!? い、いいから何とかしろ!」
残るひとりは、へっぴり腰のまま棒を振り回した。
「は、は、は」
笑っているようには見えない。「離れろ」とでも言いたいのだろうか。
どうしようかと思ったが、宇宙人を助けておくかと僕たちは彼らに近付き、幹彦と僕とチビで、ゴブリンを一体ずつ討伐した。
ゴブリン三体は魔石三つと棍棒一本を残して消え、それを宇宙人達は食い入るような目で見ていたが、僕たちがそれ以上近付こうとすると、その場から逃げるようにして離れて行った。
「ああ、逃げたよ……」
「残念だぜ。宇宙人のこととかUFOのこととか、色々聞きたかったのに……」
「仕方が無い。どうせ写真も撮れないしな」
僕たちはがっかりとしながらも、ダンジョン攻略を始めようと進み始めた。




