若隠居と未発見ダンジョン(5)
そのバラ肉窃盗犯であるトリは、羽の色は黄色くてトンビとかタカを思わせるような模様で、トリの足以外にもヒトの腕が二本ついており、顔はブタに似ていた。
「ハーピーか、あれ」
幹彦が訊くのに、チビは自信無さそうに答える。
「我の知っているハーピーは、顔がヒトで、上半身もヒトだったんだがな」
「じゃあ、新種でやんすか」
僕は気付いた。
「もしかしたら、鳥肉と豚肉が両方手に入るんじゃないかな」
一瞬、沈黙が満ちた。
「とりあえず肉泥棒ということは間違いないー」
「それも最高に美味そうな肉を盗んだ、変わった肉じゃからの」
「うむ。逃がすわけにはいかんな」
それで皆の目が輝き、ハーピーの逃げるスピードが上がった。
六階、七階、八階、九階。出て来るのは大きな昆虫のようなものだったりシカだったりワニだったりだが、どれも対処に困るものはなかった。これまでに何度も狩ってきたものばかりだし、遠くに見えてすぐに飛剣なり魔術なり岩なりの攻撃を飛ばせば、まず間違いなく上手くいく。
そうして追い詰めたのは、十階のボス部屋だった。
入ると正面に、肉泥棒と同じような姿の魔物が二羽いた。違いと言えば、肉泥棒は黄色の羽、もう二羽は、赤い羽根と緑色の羽をしていた。
募金に使えるだろうか。赤い羽根は共同募金、緑の羽は緑化運動の募金、黄色の羽は医療募金だ。
まあ、募金活動で配られる羽は、鶏の羽を染めたものだと聞いた事がある。この羽は、大きいし硬いかもしれないな。
「皆、やってしまえ!」
チビが号令をかけ、一斉に攻撃した。
一応、トリトリオは反撃しようとはしたようだ。掴みかかろうとして大きく羽を広げて飛ぶところだったのは赤いトリ、体を低くしてなにやら魔術攻撃を放とうとしていたのは緑のトリ、肉泥棒は足下に肉を置いて超音波の声を発声しようとしたらしい。
だが三羽共、攻撃が放たれる前に首が折れ、あるいは飛び、頭に穴が開いて絶命した。
「ようし、三羽共確保!」
「美味いバラ肉も取り返したぜ!」
僕たちは拳を突き上げ、僕はそそくさとハーピーとバラ肉を収納した。
「やれやれ。この先のエレベーターで戻るとするか」
「何階まであるんだろうな」
言いながら、奥に続くはずのドアへと近付く。
そして、それを見つけた。
「これってコア?」
まん丸のダンジョンコアがそこにあり、宝箱が出現していた。
「え、だって、十階でやんすよ。随分と小さいダンジョンでやんすね」
そういうダンジョンもあることはある。だいたいそこは、魔物も弱い。
「なるほど。だから、人知れず放置され、いつの間にか限界が来てスタンピードを起こしていたにしては、被害がそれほどたいしたことがなかったのかもしれんな」
チビが言って、僕たちはなるほどと頷きながら宝箱を見ていた。
魔物を目撃した人が慌てて
「見たことのない動物がいた!」
と報告したのみで、被害らしい被害は出ていないそうだ。
「どうする? 開けるか?」
攻略したのだから、開けていいに決まってはいる。だが、いいのだろうか、本当に?
「このまま置いておくわけにもいくまい」
それはそうだな。
「史緒、開けるか」
気を使ってくれたわけだね。いいよ、別に。気持ちだけで。
「いや。ここはやっぱり幹彦で」
それで幹彦が、開けることになった。
本日二つ目の宝箱を開ける。
「調合用の壺だって。これで調合すると、成功率が百パーセントになって、できあがりの性能がアップするんだって」
鑑定して言う。
「へえ、そりゃあいいな! 成功率って史緒は今も百じゃなかったっけ。でも、性能がもっと上がれば凄いぜ!」
「うむ、そうだな。少ない魔力で劣化した薬草しかなくてもいいものができるということだ」
「いいものが出たでやんすね」
「一日で攻略した甲斐があったの」
「入ってから二時間経ってないー」
「ようし、帰って一階で飯にするか」
僕たちはほくほくとしながら、エレベーターに乗った。




