若隠居と絶品中華(7)
三日後、マイケルたちは勝利を確信した様子で店にやって来た。
それに合わせて、僕たちは乾杯をして大騒ぎをする。
「いやあ、運が良かったぜ」
「これでしばらくは、遊んでくらせるよな」
上機嫌でビールで乾杯をし、奥さんとデイジーは次から次へと料理を運んでくる。それも、フカヒレやらなまこやら、高価なものが多い。
「何だ?」
マイケルはこちらに怪訝な顔を向けると、やはり忙しくビールを運んできたライアンが面倒くさそうに答えた。
「こちらのお客さんは探索者で、今日、大当たりの宝物を引き当てたんだそうだ。ちょっと忙しいからその辺で待ってろ、クソッ」
マイケルたちは嫉妬のまじった視線をこちらに向けながら、近くのテーブルに着いた。
「何か見た顔だな。知り合いだったっけ。まあいいや。お前らも飲むか」
幹彦が陽気にマイケルに話しかける。
「ああ、そうだ。こっちではこういうとき、カップとナッツをするんだったよね」
僕がしれっとそう言うと、幹彦は手を打った。
「ああ、そうだった。子供でもやってる簡単なゲームだよな」
そう言い、マイケルに笑ってみせた。
「そっちが勝ったらビールをおごってやるぜ」
マイケルは簡単にそれに乗って来た。本当に、ここではジャンケン代わりにするほどにありふれたことらしい。
「OK。ゴチになろうかな」
マイケルは笑いながら、カップとナッツを始めた。
カップをくるくると移動させ、言う。
「はい、どうぞ」
「ああ……真ん中!」
「ざんねーん」
幹彦の選んだカップは空だ。まあ、イカサマでそうなるのはわかっていたけどね。
「ちぇーっ。まあいいや。かんぱーい!」
僕たちは陽気にビールのグラスを掲げた。
そうして飲みだしたあと、マイケルの仲間が訊いてきた。
「当たりの宝箱を引いたって聞こえたんだけど」
ニヤリとして、幹彦が答えた。
「宝石がザックザクだったんだぜ。それと、この短剣もな」
そう言って見せたのは幹彦の作ったものだが、見るからに切れ味の良さそうなのがわかるもので、探索者ならそれが高級素材であるミスリル製だとわかるだろう。
ごくりと誰かが喉を鳴らした。
「へ、へえ。ついてたな」
どうにかマイケルが言うが、彼らの目は欲にギラついていた。
「そうだ。これをかけてもう一勝負しねえか」
幹彦がそう誘う。
「おお、いいぜ。でも、カップを回したりとかできるのかよ」
言われて幹彦と僕は顔を見合わせた。
「意外と難しいのか?」
「ゆっくりだと見え見えだし」
「だったら俺がやるってことでいいか」
「おう、任せたぜ」
幹彦が答えるとマイケルがニヤリとした笑みを微かに浮かべた。それを見て、僕とチビたちもニヤリとした笑みをこっそり浮かべる。
賭けの対象を示し、サインを入れた紙を用意する。
「じゃあ、いくぜ」
カップにナッツを入れ、伏せたカップをぐるぐると移動させる。
「ううん……これ!」
幹彦は指をカップのひとつに突きつけて自信満々に言った。
「はずれ。惜しいなあ、旦那」
「待て。当たりはどれだったんだよ」
幹彦に言われ、マイケルは残った二つのカップをひっくり返した。その片方にナッツが転がっていた。
「これだ」
「くそっ。もう一回だ。今度は現金で」
札をテーブルの上に置く。
「いいぜ」
マイケルたちは、嫌らしく嗤った。




