若隠居、冒険に出る(6)
「村が襲われたとき、オレまだ五歳でさ。馬車に適当に放り込まれて走り出して、しばらくしたら何かに襲われて馬車が倒れたんだ。
姉ちゃんともはぐれて、同じ村の話したことのあるやつがいたから、そいつの後を追いかけて同じように走って逃げたんだけど、気付いたら四人になってたんだ。
あとから、吸血鬼を襲ったんだからハンターだったはずだし、もう戦いも終わったかもって四人で戻ってみたらそこにはもう誰もいなくてさあ」
ヒュウはそう言って、肩を竦めて見せた。
「それで、四人で吸血鬼から隠れ棲むことになったのか」
「そ! 村がどこにあるかとか、もう全然わからなくなってたし。中の一人がいた村は吸血鬼に村人を生け贄みたいに差し出してたって聞いて、簡単に知らない村に行くのもどうだって話になったし。
魚を捕ったり、食べられる木の実や草を採ったり、罠を仕掛けて、その、小動物なんかは獲ったりしてた」
ちら、とピーコを見て「小動物」と言うあたり、小鳥と言いたいのを変えたらしい。なんとも、配慮のできる子だ。
言いながら、ピーコに干した魚の欠片をちぎって差し出し、ピーコが食べると、チビやガン助、じいにも順番に差し出し、食べられると嬉しそうに笑った。
「大変だったなあ」
幹彦が言うと、ヒュウはカラカラと笑った。
「そうなんだけど、オレは小さかったからか、遊びみたいで楽しい気もしたけどな!」
「毎日キャンプみたいな感じかな」
「そう、それ!」
言うと、ヒュウは明るく笑う。
しかしそれは、年上の人間に同意し、合わせ、身を守るクセになっていることかもしれないと思うと、笑顔が切なく見えた。
「お、見えてきたぜ。あれがエリンシュタインだ」
遠くに見えてきた町にそう幹彦が言ったとき、小さく、ふぁんとむとノーマローマの姿も見えた。見回りの帰りだろうか。
「あ。おおーい!」
声をかけて手を振れば、二人が振り返った。チビも吠えて尻尾を振り、ピーコは先に知らせておくつもりか飛んで行った。
距離がゆっくりと縮まっていく。
と、ヒュウの足が止まった。
「ヒュウ、どうした?」
幹彦が訊くが、ヒュウは答えないで目をすがめている。
ふぁんとむとノーマローマの方を見ると、あちらも足を止め、ふぁんとむがノーマローマを見ていた。
ノーマローマとヒュウ、先に恐れるように足を前に出したのはどちらだったか。その一歩は早くなり、大きくなり、走り出し。
「ヒュウ!!」
「姉ちゃあん!!」
鎌も放り出したノーマローマとヒュウは、大声を上げて泣きながら抱き合った。




