若隠居、新たなる扉(3)
風呂から上がり、着替えを済ませたダンテルたちは、さっぱりとした顔付きでこちらへと出てきた。
「お疲れ様。湯加減は良かったですか」
言うと、ダンテルたちは笑顔を浮かべた。
「何から何まで、どう礼をすればいいのか」
ダンテルが言うのに、幹彦が笑って言う。
「いいってことだぜ。気にするな」
その間に、僕はざっとダンテルたちを視る。何日どころか何百年も固形物を食べていなかったのだ。物を食べられる状態ではないのが普通だ。
そこで、最後に水分補給として飲ませておいたのは、水ではなく、ポーションだ。風呂にも、精霊水を混ぜておいた。それが効いて正常な状態になっていればいいのだけど。
そう半分祈るような気持ちで視る。
「あ、良かった。正常になってる」
思わずほっとしてそう漏らす。
「そうか。では、飯にするか」
チビがそう言う。
「言ったであろう。食えばいいと。お主に私のお勧めも教えてやろうではないか」
チビが胸を張って言い、僕に目を向ける。
「というわけで、フミオ、タレだ!」
タレの焼き肉ということだね。はいはい。
幹彦が鼻歌交じりで、簡易コンロを出して鉄板を乗せる。
「すぐに焼けるからね」
「フミオー、エビもー」
「コーンもでやんす」
「焼きそばも欲しいのう」
材料を次々とマジックバッグから出していくと、幹彦がビールも出した。
「これを忘れちゃあいけねえよな」
ビールで乾杯をして、ふと、タレのにおいにダンテルたちは気付いた。
「これは……ニンニクか?」
「せっかくだが、ニンニクはピリピリとして苦手で」
それにチビが、チッチッチッと指を振った。どこで覚えたのだろう……。
「そのピリピリ感がツウの楽しみ方ではないか。
ふぐという毒のある魚を食べるのだがな。ピリピリするのがいいとツウは言うのだ」
本当にピリピリしていれば危険で食べてはいけないんだよ、チビ。
「スリリングだと言うでやんすね」
「程度ものだがの」
「パイナップルもおろした山芋もピリピリするけど好き-」
ああ、それは酵素のせいだね、ピーコ。
しかしダンテルたちはなるほどというようにタレの皿を見ていた。
「無理はしなくていいぜ。塩も人気だし、おろしポン酢とかもいいしな」
「そうそう。高い肉とかはむしろ塩やわさびとかで食べるしね」
僕と幹彦が慌てて言うが、ダンテルたちは決めたらしい。
「いや、タレをつけてみよう」
「そうですね、ダンテル様。興味深いです」
「はい。私もタレを試してみたいです」
「せっかくだし挑戦してみようかしら」
そうして、僕たちが見守る中、タレをつけた肉を口に入れた。
もぐもぐもぐ。
「……!」
「……これは、しびれる……!」
「が、美味い……!」
「……初めての衝撃……!」
ダンテルたちは目を輝かせ、二枚目の肉を再びタレに浸けた。
チビは胸を張っていた。
「そうだろう、そうだろう! タレはいいだろう!」
「やみつきになるな!」
ダンテルたちの目が輝いている。
「いいんだろうか、ニンニク」
「ま、まあ、苦手ってだけで毒とかアレルギーではないんだろ?」
僕と幹彦はこそこそと言い合ったが、ダンテルたちは痺れるだのなんだのといいながらパクパクと食べているので放っておくことにした。
まあ、新しい食の扉が開いたのならいいことだ。たぶん。




