若隠居、語らう(1)
明日の朝に地下墳墓の入り口をひとつ以外は封鎖し、そこから内部に侵入して吸血鬼を急襲しようという話になった。
もめたのは養殖場にいる人の扱いだった。
ノーマローマは一緒に殲滅すればいいと言い、ノリゲやジルやマリアはそれに反対し、ふぁんとむがどうにか、刃向かう人以外は助けるという条件をノーマローマに呑ませた。
集合の場所と時間を決め、僕たちは見つけた寝床に帰ると言ってロウメーン屋を出ると、魔界と通じる穴へと向かった。
一応、町外れに寝床があると言ってあり、穴の近くにあった空き家に、生活しているような偽装を施している。
「でも、吸血鬼ってなんだろうなあ」
夕方の一度目の鐘を聞きながら言うと、チビが僕を見上げた。
「今更だな、フミオ」
「まあね。でも、人間の生き血がないと生きられないなんて、何でだろうと思わないか?」
幹彦も怪訝な表情になってチビと顔を見合わせた。
「そういうもんだろ?」
「まあそうなんだけど、感染する場合もあるっていうのが、何か変じゃないかな。
蚊に血を吸われて蚊になった人はいないよ」
「なったら怖いけどな。確かにいねえよな」
幹彦はそう言ってううんと考え始めた。
「考えたこともなかったな。そう言えば、血を啜られて死ぬというだけならある種当然のような気もするが、吸血鬼になったりならなかったりするというのは、どうなんだろうな」
チビも考え始めた。
「毒みたいなものー?」
ピーコが言い、僕はその可能性を考えてみる。
「あながち、外れてもいないかも。
調べてみたら、何か弱点なり何かが見つかるかもね」
そう勢いこんでみたものの、冷静になれば自分でもその難しさに気付いた。
「どうやって調べるのかとか、難しいな」
「ああ。解剖するのか? 普通の刃で開いたらすぐに傷が治っていくし、銀の刃で開けばすぐに灰になるだろうし」
「だよね。血液検査くらいはできるかな。それとも、体から離れたら血も灰になるとか?」
僕たちは互いに見つめ合い、一斉に首を傾げた。
「まったくわからんな」
「ああ。チャレンジしてみるか?」
「そうだね。機会があれば、そうしてみたいね」
何かわくわくしてきた。
しかし幹彦とチビは苦笑し、
「ほどほどにな」
と言った。
喋りながら町外れにある穴の方へと歩いていると、町の方から、夜を知らせる鐘の音が響いてきた。二度目の鐘だ。
「遅くなったなあ」
言いながら足を早めているうちに完全な夜になる。
そうしてやれやれと穴へと入ると、少し奥にいた誰かと目が合った。
「うおっ」
思わず幹彦が声を出したが、相手もやや驚いたように上体を揺らした。
「ああ、どうも」
何となく声をかけながら、どうしたものかと考える。
夜になる前に町へ入れなかった旅人だろうか。外をうろうろするよりはと、こんな穴の中へ身を潜めているのかもしれない。
だが、彼の目の前で転移するわけにもいかない。
朝になるまで、一緒にここにいるしかないのだろうか。
「えっと、町に入り損ねました?」
幹彦が笑いながら言うと、その人物は頭を掻いたようだった。
というのも、長身で体格のいい男だというのはシルエットでわかるが、フード付きのマントでスッポリと頭も体も覆っているので、年齢もわからないのだ。
「ああ、そんなところだ。
そちらも?」
訊き返され、幹彦はあははと笑った。
「そんなところです」
ううむ。仕方が無い。僕たちはその彼と一緒に、夜明かしをする覚悟を決めた。




