若隠居の魔界探訪再開(3)
ヒトガタの野菜を見つけては穫り、魔物を見つけては狩る。そしてたまに、オーガを見つけては物陰から観察する。
「オーガはヒトガタの野菜を主に食べているみたいだな。ちょっと意外だぜ」
まさか、菜食主義だったとはな。
「たまに魔物を狩るときもあるけど、あれって、野菜を荒らす害獣として退治するとか、骨とか牙とか脂とか皮とかを利用したいから狩るのかな」
「肉味のダイコンは食べていたが、肉は食べていないようだな」
「肥料にしてたでやんすからね」
「もったいない」
ムスッとチビが言って、全員で大きく頷いた。
仲良くできるのかどうかが、今ひとつわからない。
「まあ、観察を続けよう。もしかしたら、雪の下に野菜を埋めて長期保存するように、土の下に肉を埋めて発酵させて食べるとかいう食文化があるのかもしれないし」
そう言って、まだ油断はしないようにしながら進むことにした。
どういうわけか、根菜類は皆人型で、その内のいくつかは叫び、いくつかは逃げ回る。しかし、総じて味はいい。
「どうしよう。地下室に植えるか……」
「叫ぶやつはちょっとなあ」
「うむ。逃げ回って外に飛び出したり家の中をうろついたりしても困るぞ」
「囲いを作って、叫ばない野菜だけを移植しようか」
「そうだな。美味いやつもいるけど、仕方ないな」
残念だが、その方がいいだろう。
そう言い合いながら歩いていると、再びオーガが現われた。魔人を攻撃しているようだが、流石にもうわかっている。
「あれは何の野菜かなあ」
「丸いし、ちょっと茶色いな」
「頭の先がとんがってるでやんすね」
茶色い大きな頭を重そうに揺らしながら、細くて短い手足でちょこちょこと走っている。
するとそのうちのひとつにオーガの手がかかった。
と思うと、次の瞬間、オーガに掴まれた部分がペロリと剥がれて本体はそのまま転がって逃れた。
「たまねぎじゃの」
隠れている岩陰から、じいが小声で言った。
ペロリと剥がれたのは、表面の皮の部分らしい。しかもそれは鋭利な刃物のようになっているのか、それに触れたオーガの腕や足に切り傷ができた。
オーガたちがヒトガタタマネギに向かって手をかざすと、ヒトガタタマネギの前に穴ができ、見事にヒトガタタマネギはそこにはまり込んでしまった。
穴のふちに頭の部分が引っかかっているだけのようで、悠々と近付いてきて頭の上のとんがった部分を切られると、それでおとなしくなった。
どうも、あのてっぺんのとんがった部分を切ることで走り回る事が無くなり、食べられるたまねぎとなるようだ。
オーガたちはむんずとヒトガタタマネギを抱えて穴から出し、そこで茶色い表皮を剥いで捨てた。
それからケガをしたオーガに一人のオーガが手をかざし、治癒の魔術を発動させる。
治癒までできるとは驚いた。
そうして去って行くオーガたちを見送ってから、僕たちは何となく穴の所まで覗きに行った。
「ああ。頭より少しだけ小さめで深い穴を掘って、宙ぶらりんにしたのか」
穴のふちに頭を引っかけ、届かない足をじたばたさせる姿を想像してみると、申し訳ないがちょっとかわいい。
「茶色い皮に注意だな」
チビは捨てられた茶色い皮を見ながら言う。
柔らかいがちぎれた断面が鋭く、紙で手を切る事があるが、そういうふうに切れるのだろう。
地球のたまねぎだとこの皮にはケルセチンが含まれているそうだが、拾って帰るほどでもない。危ないだけだ。
「見つけたら、最初から頭のとんがりを落として逃げる隙を与えないようにしようぜ」
「そうだな。追いかけるのも面倒だ」
幹彦とチビはそんなふうに作戦を立てながら、茶色い表皮を穴の中に落としていった。
「たまねぎは叫ばなかったでやんすね」
「じゃあ、探すのー?」
「おろしたまねぎは、ステーキのタレとかにも使えるし、焼いても炊いても揚げても美味しいからね」
「では探すかの」
僕たちは張り切ってヒトガタタマネギを探し始めた。




