若隠居の魔界探訪(4)
山を切り開いて広場にしたようなところが見えてきた。
そこには平たい大きな岩がいくつか並び、ゲラゲラと笑うオーガたちと、ぐったりと地面に寝転がる魔人たちらしきものがいた。
大きな平たい岩は熱いらしく、岩の上の空気がゆらゆらと揺らいで見える。
魔人は枷を付けられており、笑うオーガに岩の上に伏せさせられて、絶叫をあげる。肉の焦げるにおいがした。
オーガたちは酒を飲みながら、岩に伏せさせられて暴れようとする魔人を押さえ、手足にロープ状のものをかけていくのだが、そのたびに魔人は叫び声を上げる。
しかしすぐに声も出さなくなり、動かなくなった。
それを見てオーガたちは笑い、大きな斧で体を斬り刻みはじめた。
僕たちは離れたところからそれを見ていたが、すぐにでも確認のために近づきたかった。
「焼いているぞ、今度は」
幹彦が静かに期待を込めて言う。
「さっきのダイコンに似ているけど、色がちょっと違うよ。
野菜なのかやっぱり今度は魔人なのか、ちょっとわからないよ」
僕も、目をすがめながら言う。
「そうだな。あやつら、さっさと食い終わってどこかにいけばいいのに。邪魔だな」
チビは言って、広場を見回す。
「オーガは十二人ほどか。捕まった魔人に見える何かは七体あるようだが、そばにオーガがいるぞ。斧を振り回されたら、簡単に巻き添えを食ってやられるぞ」
「離れてくれたらいいんでやんすけど」
皆で、どうしたものかと相談した。
三分後、ヘロヘロした感じで僕はその広場に入り込み、座り込んだ。
「水、誰か、水を……」
「なんだお前、魔人か」
オーガのひとりが言い、僕は初めて気付いたかのように顔を上げて驚いて見せた。
「迷い込んできたのか。ははは!」
オーガたちは笑い合い、近くの、魔人たちのそばにいたオーガがこちらへ寄って来る。そして、オーガが魔人たちに見える何かから数メートル離れたところで、指を突きつけた。
「今だ!」
言って、雷をそのオーガに落とした。たかだか、ちょっとしびれて気を失う程度のものだ。
同時に、驚いてそれを見ていたほかのオーガの背後から幹彦たちが襲いかかり、オーガたちは二重に驚いてとっさに反応できないオーガから、幹彦に斬られ、チビに引き裂かれ、ピーコに焼かれ、ガン助の岩に吹っ飛ばされた。
まあどれも、峰打ちとかそういうもので、失神する程度だ。
僕は転がっている魔人たちらしきものの側へ急ぐと、
「ああ」
と声を漏らした。
じいはオーガたちの飲んでいた飲み物を操って、怒ってこちらへ襲いかかろうとするオーガの足をすくって転ばせた。そこをすかさず薙刀で失神させる。
同じように、チビや幹彦たちも、オーガを動けないようにしている。
全てのオーガが倒れ、幹彦たちが寄ってきて、魔人に見えたものを見た。
「ああ……」
「まあ、魔人でなくてよかったな」
「でも、一方的にこっちが襲って食料を強奪したみたいになってるけど……」
「確認のために仕方がなかったでやんすよ。ええ、そうでやんす」
そうして失神したオーガを残し、ほっと息をつく。
「帰ろうか」
そうしてまた、今度は人型の茶色いダイコンらしきものを数本だけ抱え、僕たちは今日はここまでと、日本の家へと戻った。
「はあ。参ったぜ」
「鬼とはねえ」
「さっぱりして飯にするぞ」
言いながら、地下の温泉へとざぶんとつかる。
「はあ~。極楽極楽」
どこで覚えたのか、チビがそんなことを言う。
ん? 極楽?
首を捻っていると、幹彦がそれに気付いた。
「どうした史緒」
「ん? いや、何かひっかかって……。どこかで見た風景のような気がするんだけど、そんなわけないし……」
幹彦も一緒に考えるが、どちらもわからなかった。
「まあいいや。似たような何かをテレビか何かで見たんだろうし」
言って、
「さあ、足りないものを買って来て鍋にするか」
と温泉から上がった。
豆腐に、菊菜に、はるさめだな。
感じた違和感は、頭からすっかり抜け落ちていた。




