若隠居の魔界探訪(1)
僕たちは、魔界一周の旅に出た。
まあ、毎日夜は家へ帰り、たまにキャンプする気ままなものだ。
岩山ばかりの寂しい景色は、歩いていても景観という意味ではそう楽しいものではない。それでも、不意に現われる魔物は、見たことがない生物の形をしていたり、変な色をしていたりする。そして総じて強く、幹彦やチビたちには受けがよかった。
「焼いたら意外とさっぱりしてるよ」
「おお、それはいいな! また出てこねえかな」
そしてそれを調理して食べてみるのが、また楽しい。
魔人たちが穫りに行くムムの実というものも食べてみた。美味しい上にケガの治りが早くなるという効能付きだと聞いていたが、視たところ、回復の効能のある実であることがわかった。
だが、魔人たちはそのままかじっていたそうだが、絞って果汁を煮詰めた方が効能はより上がるし、精霊水を混ぜてポーション化したら格段に効能が上がる。
調合というものを知らないようなので、広めた方が良さそうだ。
歩いているうちに、山と山の間の谷間を見下ろすところに差し掛かった。
「ここを渡らないと進めねえな」
「どうしてもなら飛ぶけど」
「うむ。あいつらを倒さんといかんな」
聞いていない。どうしても、眼下の谷に流れる川を泳ぐヘビやワニと、戦いたいらしい。
「まあ、ワニは鳥のささみみたいで美味しいね」
僕も、あれを仕留めて食べるのはやぶさかではない。
「じゃあ、作戦会議でやんすね」
「火で丸焦げー?」
「あの皮は使えそうだぜ。なるべくきれいに仕留めたいな」
「まとめて冷凍にする手もあるぞ」
「どっちも寒さに弱そうだしね」
相談し、作戦を立てる。
そして、実行だ。
まずは水面に向かって雷を落とす。すると、ビリビリときたことに慌てたワニとヘビが岸へ我先にと這い上がってくる。これで、水中にワニが潜むという危険率は減らせた。魚は腹を上にしてプカプカと浮いてきた。魚までゲットだ。
それを見ながら飛び出して行ったチビとガン助が、攻撃を仕掛けようとワニが口を開けると、すかさずその口の中に氷や岩を飛ばす。ワニの弱点は口の中と聞くが、魔界のワニもそうらしい。
それで慌て、パニックになるワニの喉を、幹彦がすれ違いざまに斬って走り過ぎる。
僕も幹彦のスピードには敵わないまでもなぎなたで斬っていき、じいはヘビをガスで眠らせていく。
そしてもちろん、魚の回収も忘れない。
「おお、大漁、大漁」
僕たちはほくほくしながら、軽い足取りでその危険な谷を渡っていった。
ヘビは、好んで食べたいとは思わないので、空間収納庫にとりあえず入れておく。魔人たちにはいいタンパク源になるそうだから、お土産にしてもいい。
ワニの皮はもちろんいい素材となるし、身は美味しい。串に刺して焼き、タレをかけてまた焼く。そう、蒲焼きだ。そしてそれをご飯の上に載せれば、ワニ丼である。
「肉厚でジューシー!」
「ウナギとはまた違う美味しさだなあ」
「脂も適度で上品だ」
「これ、養殖できないでやんすか」
「ああ、いいのう。地下室……は万が一見られたらまずいじゃろうが、魔人のところならいけるのではないかの」
「よし。帰りに生け捕りにしていくぞ」
チビたちはやる気だ。
「やっぱり魔界の魔物はより美味しいな」
「この先がますます楽しみだぜ」
僕たちの魔界一周グルメ旅は、始まったばかりである。




