若隠居の大魔王戦最後の戦い(5)
気付くと、チビの背中に乗り、チラチラと皆に気遣うような視線を向けられていた。
「天気が悪いなあ。ピクニックなのに……あれ。ピクニックだったっけ?」
「いいから。史緒、大人しくしてろ、な?」
「何だよー、幹彦ぉ」
「ミキヒコ、フミオは酒を飲まなくても酔える特技でもあったのか」
「そんな特技、聞いたことねえよ」
ひそひそという声が聞こえる。
「失礼だなあ。酔ってなんかないよぉ」
でも、どうしてだろう。体の中がぽかぽかするようで、何かがこんこんと湧き続けているような変な感じがする。
「あ、大きな木! このー⚫何の⚫気になる⚫-」
思わず有名なその歌を歌い出してしまったのだが。
「チビ、いいから急げ!」
「よ、よし! しっかり掴まってろよ、フミオ」
チビはスピードを上げ、僕はふかふかの背中の毛にしっかりとくっついた。
「ふかふかで気持ちいいなあ」
「そうか、それはよかった」
チビの呆れたような声が聞こえたような気がする。
そうして揺られていると絶妙に気持ちがよく、ふふふんと鼻歌を歌ってそのチビドライブを楽しんでいた。
どのくらいした頃か、争うような音や声がし始め、チビがスピードを落とした。
背中の上で、何事かと体を起こす。
「何だよー、楽しかったのに。けんか?」
「アイナたちが劣勢みたいだな。間に合ったのか?」
見ると、弱そうなグループと強そうで人数の多いグループがぶつかっており、上空ではドラゴンが、強そうなグループから魔術攻撃を受けていた。
思い出した。そう言えばアイナたちを助けようと魔界に来たんだった。
「弱い者いじめ、だめだぞ。
あ。アイナかあ。負けそうだなあ。よし。ちょっと、懲らしめてやるかー。ええい!」
僕は軽く、アイナたちを今にも押しつぶそうとしていたグループに向けて火の弾を撃った。
「あ、バカ!」
「まずい!」
幹彦とチビの焦ったような声がする中、考えていたよりも大きな火の弾が飛んでいく。直径一メートル程度のものを作る気でいたのに、なぜか直径八メートルはある。
それに気付いた強そうな方のリーダーらしい者が、それを流した。
「む。これならどうだー」
今度は意識的に大きくして投げつける。何か頭の上の方がチリチリと熱い気がしたが気にしない。
投げつけて飛んで行く火の弾を見ると、直径は二十メートルほどはあった。
ぶつかり合っていた両方のグループが焦った顔付きで散り散りに逃げ、その真ん中に火の弾が落ちた。
地響きがして土煙が上がり、その中の誰かが土煙を風の魔術で払い、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
「ん? 弱い者いじめのリーダーか。この隠居が成敗してやるー」
飛んで来た火の槍をさっと無造作に消し去り、収束魔術を打ち込む。
その瞬間、チビの背中の上でちょっと滑り、手元が狂った。
着弾点が少しずれ、そのリーダーの数メートル横を通り過ぎて、背後に飛んで行く。
「そこの、いじめっこのリーダー。あ、烈王れすね」
「へ、あ、え?」
リーダーこと烈王は、驚いたような顔で硬直したまま、こちらを見ている。
「弱い者いじめは、してはいけましぇん」
「でも、え、誰?」
「隠居れす。
まだやると言うなら、僕が相手になります」
指を烈王に向けて言うと、烈王は強ばった顔のまま部下に命令を下した。
「あ、あいつから片付けろ!」
部下たちは戸惑ったようにしていたり、命令通りにこちらへ向かって来ようとしていたりしている。
「負けるわけにはいかにゃいしなあ。景気づけに、えい! えい! えい! ビーム三連発ぅ」
続けて収束魔術を撃つ。
「さあ、始めるぞー」
チビの背中からおり、たたらを踏んでから仁王立ちになり、言った。
「さあ、こーい」
烈王は膝を突き、悲痛な声で言った。
「無理……」
土煙が晴れてきた中でよく目をこらして見てみると、烈王の向こう側にあった山の山頂が蒸発して火山の火口のようになっており、烈王の背後には大きなクレーターができていた。
「隕石かな?」
空を見た。それで頭がくらりとして意識がなくなったが、その寸前、空一面にオーロラが広がっていくのを見た。




