若隠居と嵐の孤島(6)
その後も僕たちは、色んな魔物に遭ってはそれを屠りながら進んでいった。
トレントや、子牛をまるごと飲み込めるような食虫植物や、種を飛ばして突き刺した相手で苗木を育てようとする植物が定期的にいる間を、大群のアリや大群のヒルなどといった、単体ではたいしたことがないのに面倒な相手というのが襲ってきた。
魔術で、一気に凍らせたり焼いたり吹き飛ばしたり叩き潰したりできるところはそれで片付けて、黙々と進んだのは、コアの破壊を急ぐせいだ。決して、面倒でうんざりしていたからでもイライラしていたせいでもない。
「コアってのはどこにあるんだよ」
その湖に辿り着いた僕たちは、辺りを見回した。ここは山の頂上といった感じのところで、広場のように開けていて、そこに直径十五メートルほどの湖があるばかりだった。
これまであった「次のステージへの通路」のようなものがなく、探ってみても、ここが最終地点のようだ。
「湖の底とか?」
湖の畔にしゃがんで水面を見た。
凪いだ水面には青空と覗き込む僕の顔が映っており、透明ではあるのにあまり水中が見えなかった。
何か引っかかりを感じながらも、別のところを探ってみるかと立ち上がりかけた瞬間、水面の僕の顔がゆがみ、横に広がり、おかしいな、と思った時には後ろ襟をチビにくわえて引っぱられてその場から引き剥がされていた。
ザバアと湖が盛り上がって水の柱のようになったかと思ったが、よく見たら違った。プルンとしたゼリー状の巨大な何かが湖の中から姿を現したのだ。
いや、正確には、湖と思っていたがそのほとんどはこの巨大なゼリーで、水はほんの池程度の水量しかなかった。
「何だ、こいつ!?」
少し離れた所にあるこの頂上の端から上空へと飛んで辺りを調べていた幹彦が文字通り飛んで戻ってきた。
「スライムだな」
チビが落ち着いて答え、僕たちはそれを目を見開いて見た。
「スライム!?」
「デ、デカイでやんすね」
ガン助が驚いたように言う。
色んなスライムがいるとは聞いているし、いくらかは直に見たこともある。害のないぷよぷよも金属のように固い球体もいたし、ゴミやトイレの処理をしてくれるような役に立つスライムもいれば、攻撃的で厄介なスライムもいた。しかしそのどれもが、大きくても直径一メートル以下という大きさだった。
「異常個体か?」
幹彦が言うのに、チビは体を低くして警戒しながら言った。
「国の存続を危うくするようなスライムもいると言っただろう。それがこれだ」
僕たちが揃ってそのスライムを見ている先で、スライムは体の動きを確認するかのように体をブルルンと揺らし、軽くゆらゆらと揺するような動きをし始めた。
「国の存続を危うくするって、ちょっと大げさなんじゃないのか、チビ」
大きいとは言え、これより大きい魔物はいくらでもいる。それこそドラゴンなんかは、大きさも攻撃力もこれを上回っているだろう。
しかしチビは、唸るような声を上げながら皆に警戒を促した。
「今は、目覚めたばかりなんだろうな。周囲のありとあらゆるものを取り込んで、際限なく大きくなっていくんだ、こいつは。転がって、それにつれて大きくなって、触れたものを根こそぎ取り込んでいく」
誰かの息を呑む音が聞こえた。僕のものだったのかもしれない。
「焼くとか、凍らせるとか」
ピーコが言うが、チビは首を振る。
「だめだ。こいつには魔術攻撃は効かないし、あの体液は、聖剣だろうが魔剣だろうが軽く溶かしてしまうからな。物理攻撃すら不可能だ」
スライムの揺れが大きくなってきて、僕たちは、じり、と後ずさった。
「じゃあ、どうするんだよ。これまで、どうしたんだ、チビ」
「どこかの国はこいつに飲み込まれて消え、そのあとこいつは海に落ちてその後は不明だと聞いた」
「流石に海の水を飲み干すことはできなかったんでやんすかね」
「じゃあ、海にこいつを落とせばいいんじゃないかの」
「その前に色々と吸収して大きくなって、海に着く頃には、船の皆が逃げ切れないほどになっているかもしれんぞ」
相談している間にも揺れは大きくなって、今にもころりと転がり出しそうになっている。
「参ったな」
幹彦が言うが、本当に参ったよ。




