若隠居と竜宮城(5)
戻る途中でウナギも透明アンコウも発見して捕まえることができ、よしとした。
湖の周囲には小魚が落ちてびちびちとはねており、たくさんの人がそれを嬉しそうに拾っていた。
「何があったんだろう。何か見なかったか」
訊かれたので、
「竜巻が水面で発生したんでしょうね。その場合、水中の生き物を巻き上げて、こうやって落下させるんですよ」
と解説してやれば、そうなのか、と感心したように頷いていた。
ついでに小魚も拾っておこう。開きにしてフライにするとか、南蛮漬けもいいし、一口にぎり寿司でもいい。
そうしていきなりの小魚拾い祭りも終わると、ふと、気になってチビに訊いた。
「そう言えば、ザラタンってどんなものなんだ」
チビは魚臭くなった手をかいで嫌そうにしてから答えた。
「大きなカニとかカメとか諸説あるな。元々ザラタンにせよリヴァイアサンにせよ、広い海に住んでいるのに個体数は少なくて、目撃例があまりないのだ。だから、数百年前に見られたザラタンの姿も、よくわからんな」
魔術で水を出して皆で順番に手を洗わせながら聞いていたが、幹彦がふうんと言いながら継ぐ。
「その種族中で、一番魔力の大きくて、神獣の資格があるって個体が、神獣になるんだったっけ」
「そうだな」
それで、思い出した。
「あれ? 大きな、カニかカメ?」
全員、それを思い出していた。
「大きなカニを討伐しちゃったよな」
チビ、じいの目が泳ぐ。
「ま、まさか、の」
「う、うむ。あの程度のやつだぞ」
「そうでやんすよ。ねえ」
ガン助もおろおろとしたように手足をばたつかせ、助けを求めるように視線を飛ばす。
「食べちゃった?」
ピーコが恐る恐る言い、全員、しばし動きを止めた。
ややあって、幹彦が復活する。
「気にするな。なあ!」
「そうだな! もう食べたし、気にしない気にしない!」
僕たちは無理に明るく笑い、昼ご飯にすることにした。
そんなラドライエ大陸周遊の旅も、終わりになった。一周したからだ。
だからエスカベル大陸へ向かう船に僕たちは乗り込んでいる。
転移すれば早いのだが、大陸から大陸へ向かう船に乗る時と降りるときには名簿に名前を書き、チェックするのだ。一応は停戦中でしかない大陸だから、用心しているらしい。それで、戻る船に乗船した記録がないと不自然になるので、船旅で帰ることになったのだ。
「なんだかんだで、楽しかったな」
「ああ。いろいろと収穫もあったし」
入れた液体を出し続ける水筒や、人魚の涙、数々の食材。
トゥリスとナザイは、ほかのドラゴンに「ヒトは美味しいものを提供できるから殺してはいけない」と知らせて回っているらしく、港町でも人化したドラゴンが料理を食べに来ていた。
グルメ大使になったようなものだ。
「またその内、遊びに来ようか」
「そうだな。ドワーフの所とか、もう一回行きたいぜ。ゆっくりと」
「それもいいな」
依頼で、急いでいたからな。
次からは、最初から転移で行けばいい。
「ま、悪くない旅行だったか」
チビが言い、僕たちは並んで、小さくなっていくラドライエ大陸を見ていた。




