異世界への誘い
イノシシの毛皮は、耐久性は大した事が無いが防水で、それなら地球で流通している製品と違いがない。それでも、「ダンジョンの魔物製」という付加価値がありがたがられるようだ。
魔物なら、動物愛護団体から抗議されるとかいう事もないのだろう。
「次行くぞ」
「おう」
僕達は、魔物と珍しい野草を探しながらの、ダンジョン探索を続けた。
こっそりと地下室の魔石を混ぜて売りに出そうと考えていたのに、できなかった。低層でそんなに何かが大量発生したのかと怪しまれてしまうからだ。
「参ったな」
魔石の個人所持は禁止だ。バレたら逮捕される。
「埋めておくしかないのかな」
幹彦が言い、ロッカーのカギをかける。
チビは大人しく子犬のフリをしていたが、もう家だからと猫を脱ぎすてて、大きく伸びをして言葉を発する。
「面倒臭いな、地球の法律は。いっそ向こうで換金してしまえば楽なのに」
それに、僕も幹彦もバッとチビの方を振り返った。
「何?向こうってどっち?まさか異世界か?」
幹彦が期待をこめてチビを掴む。
チビはたじろぎながらも、
「わ、私がどこからジビエを獲って来てると思ってたんだ?」
と言うので、僕と幹彦はその言葉を頭の中で3回ほどくりかえしてから、声を張り上げた。
「異世界!?」
「別のダンジョンって言うから、地球の別のダンジョンと思ってたよ、幹彦!」
「そもそも地球に精霊樹のある所は他にないだろう、後は協会のビルの中の枝しか。異世界の、精霊樹の所に転移していたんだ」
聞いていたけど、わかっていなかった。
「なあ。その異世界。俺達も行けるのか?」
幹彦はあからさまにワクワクしている。
「フミオとミキヒコは私とつながりがあるから行き来できるぞ。向こうで冒険者になればいい」
異世界か!興味はあるな!
「史緒!」
期待を込めた目で幹彦がこちらを向いたので、僕も大きく頷く。
「行こう、幹彦!」
「おう!」
チビは満足げに目を細め、付け足した。
「ただし、異世界人だとはバレない方がいいだろうな。
異世界の存在を、為政者と教会のトップは知っているが、秘密にしている。昔それを明かそうとした王族がいたが、急な病気で死ぬ羽目になったしな」
僕と幹彦は、カメラだ折り紙だと浮かれていたが、急に真顔になった。
「え。何それ。そんな所に行くのって危なくないのか?」
チビに思わず詰め寄った。
「バレなければ問題ない。せいぜい田舎から出て来たばかりで疎いというフリで通すのがいいだろうな」
バレたら問題なんじゃないのか?
「神獣の仲間って事でなんとかなるんじゃないのか?」
幹彦が言い出し、確かにそれもそうかと安心したのだが。
「教会に監禁されて使徒扱いで拝み奉られるかもな」
それも嫌だ。
しかし幹彦は、興味を掻きたてられたようだ。
「バレなきゃいいんだろ、バレなきゃ。戸籍とか身分証とかどうなんだ?服装や持ち物は?」
幹彦は乗り気らしい。
「戸籍なんて、貴族しか縁が無いものだな。服装は、まあ、ダンジョンへ行く格好なら大丈夫だろうから、まずは見て確認すればいい」
チビがそう言うものだから、幹彦はすっかりその気になってしまった。
「それならまずは確認に行かないとな!」
「え、危なくないのか?」
「大丈夫だって。もしヤバくなったら、またこっちに逃げて来ればいいし!」
自信満々に言って笑う。
どうしよう。気になるのは気になる。行くか?でも……。
「こっちにはない薬草とか、魔道具なんかもいっぱいあるなあ」
チビがそう言う。
「バレそうになったら、すぐに逃げるからな!」
好奇心には勝てなかった。
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