若隠居の人族はつらいよ(4)
牢に入れられた僕たちの所に難しい顔をした犬人たちがやってきて、牢の外から口々に質問する。
「子供を誘拐したのはお前たちだろう」
「子供をどこに隠している。この、薄汚い人族め」
「それとももう奴隷商人に子供を売ったのか!?」
「そいつらの通るルートを言え!」
どんどんヒートアップしていく。
言っている内容から推測は付き、感情的になるのも仕方が無いとは思うが、これはまずい。
「僕たちはただの隠居の冒険者です。誘拐犯は別にいますし、こうしている時間が惜しいんじゃないですか。
子供がいなくなったのは、いつ、どこでです。おかしな目撃証言はないんですか」
言い返すが、半分以上の犬人は聞く耳を持たない。
「あ、そう言えばハーフの奴らの冒険者チームもいたな。あいつらか」
「ハーフなんて半端者、金で何をしやがるかわからねえ」
「昔死んだエマの息子と娘もいたしな。恨みでやりやがったのかも」
そんなことを言い出す。
ハーフの冒険者チームというのはオズたちのことに違いないし、エマの子というのも、オズとシルのことだろう。
「えっと、においで追いかけるとかできないのか」
幹彦が控えめに言った。
まあ、そうだよな。警察犬代わりにできそうと思うけど、そう言うのは失礼かもしれないしな。
彼らは苦虫をかみつぶしたような顔で僕たちを睨み、
「追えないんだよ、白々しい」
「においを消したんだろうに、お前らが」
と言う。
におい……思い出した。
「もの凄い強いにおいでごまかしたりできますよね」
幹彦が、あ、と手を打つ。
「あの行商人の馬車! 凄えきついにおいがしてたな!」
チビが思い出したように、嫌そうに丸まって唸った。
「シロワさんか? あの人は犬人だし信用できる。バカなことを言うな」
吐き捨てるように言う犬人がいるが、中には考え込む犬人もいる。
「そうだよなあ。うん。でも……」
「護衛のムジカとエスも犬人だぞ。同胞を疑うヤツがいるか」
「そうだけど……」
「とにかく、運び出すにも港町だろう。急いで人をやっておくのが先だ」
彼らは言い合いを始めたが、別の犬人グループがオズたちを連れて来た。
「こいつらを捕まえてきたぜ」
「恨みに思ってやったに違いない」
「知らねえって言ってるだろう!?」
オズたちは反論するが、同じ牢に入れられてしまった。牢が一つしか無いのだ。正直、人口密度が高くなって狭い。
「チッ。こいつらはいつもこれだ。ハーフだからってだけで」
ラムダがイライラと言って、壁を殴りつけた。
「朝、何かバタバタしてたけど、あれがそうだったんだろうな。
やっぱり、居なくなったのは今朝だろう。なら、今日町を出た人が容疑者だよな」
幹彦が名探偵よろしく腕を組んで言うのに、ナナが続ける。
「私とシルの警戒当番は一番最後だったけど、町を出て行ったのはシロワ商会の馬車が最初で、次が私たちよ」
「うんうん。間違いないわよ」
シルもナナに同意する。
「なら、やっぱり怪しいのはあの行商人じゃないか。あのきついにおいと言い、最重要容疑者だろ」
僕もそう言って皆の顔をグルリと見回す。
「問題は、やつらが私たちの言い分を聞かないことだな」
チビが言って、皆が同時に意気消沈した。
しかし意外にも、彼らはすぐに姿を現した。
「そっちのハーフどもは町に入りもしていないらしいし、そっちは呑気そうで事情もわかっていないようだ。見つけた山の中にもそれらしい痕跡はなかったしな。一応釈放することになった」
かなり不承不承というのが丸わかりな態度の犬人もいる。子供も連れておらず、子供のにおいも移っておらず、何も証拠がないので仕方なく、というところだろう。
僕たちは牢を出て、二度目の儀式を行った。
「おつとめご苦労さんです」




