若隠居のダンジョン探訪(3)
入り乱れて暴れるような気配がして、幹彦とチビがまず警戒する姿勢をとり、遅れて皆もそれに続いた。
「何だ。何かが暴れているのか?」
小声で言い、警戒しながら木の間を縫って近付いて行く。
「魔物か?」
幹彦が訊くのに、竜人たちは誰もすぐに返事を返せなかった。
それもそのはずだ。それは一メートル半程度の身長の、二足歩行生物の姿をしていた。頭にはウサギの耳があり、両手には鋭い爪が生え、口元には鋭い牙が覗いている。それだけならば兎人族と何かのハーフだろうと思うところだが、おかしなものが付いている。胸に大きなこぶのようなものがあり、頭は後頭部が異様に突き出された形になっていた。そのせいで、それが何なのか、誰にも断定しかねた。
それが苦しむように暴れ、やたらと腕を振り回して、フードを深く被った小柄な三人組と対峙していたのだ。
「どうした!?」
竜人が声をかけると、フードの一人がハッとしたようにこちらに目を向け、深くフードを下ろし直し、あろうことかほかの二人に
「行くぞ」
と声をかけて、三人でその場から逃げ去っていった。
呆気にとられたように僕たちはそれを見送ったが、その新種の魔物か何かが悲痛にも聞こえる声を上げて我に返った。
「とにかくこいつだ。殺ってもいいんだな?」
幹彦が確認するように訊くと、竜人が各々構えながら許可した。
その直後、それは大きく腕を振って、その先から火の矢を飛ばしてきた。
「魔法!? やっぱり魔物なのか!?」
竜人族たちは体を低くしてそれを避けながらも、驚いたように言う。
精霊のいない現在、精霊魔法を使う獣人は魔法を使えないため、このラドライエ大陸で魔術を使えるのはドラゴンと魔物だけだ。目の前のそれはドラゴンには見えないので、魔物でしかない、という事になるのだろうか。
「魔術を使うなら不利だろう。俺たちで片付けるぜ」
幹彦が言い、僕とチビたちでそれを囲む。
「うわあああ!」
叫ぶ姿と声は、獣人のように思える。
「幹彦、何かに寄生でもされているのかもしれない。感染に注意してくれ」
言うと、幹彦は、
「了解!」
と言って刀を振り、飛剣を飛ばした。それはそれの右腕の付け根に当たり、腕の腱を斬って腕をだらりと垂れさせる。
「あああああ!!」
それは叫んで、メチャクチャに火の矢を飛ばす。コントロールも威力も関係なく、ただ飛ばしているというだけだ。
驚いたものの、敵としてはそう大したものではない。
「幹彦。調べたいから、こっちで無力化──」
言っている途中で、様子が変わる。目をカッと見開き、目尻と鼻から血液を流す。
「あ、やばい」
嫌な予感に、それの周囲に結界を張って囲む。
その直後、胸が破裂して結界を内側から真っ赤に染める。
遅れて、どさりと何かが倒れる音がし、幹彦とチビが警戒態勢を解いた。
「死んだみたいだぜ」
それで結界を圧縮してその死体を血液ごと包み込み、周囲から完全に遮断した。
「何かに寄生されているかもしれないし、調べた方がいいと思う」
言いながら、僕は近寄って、それを視た。
幹彦も近寄り、固い声で言った。
「さっきのフードの奴ら、ずっとこっちを窺ってやがったけど、今どこかに行ったぜ」
竜人たちも恐る恐る近寄り、訊いた。
「それで、そいつをどうするつもりだ?」
僕は立ち上がると、しっかりと彼らの目を見て答えた。
「持ち帰って調べます」




