若隠居の旅は道連れ(6)
このラドライエ大陸に来てからはダンジョンへは入っていない。それどころか、ダンジョンに近付いてもいない。なので、情報は全くない。
「炎をまとったサソリか。外骨格がいい太刀になりそうだぜ」
幹彦がワクワクとして言えば、
「毒をもつクモも、糸だって使えそうだし、毒もたぶんポーションに使えるんじゃないかな」
と僕も素材に興味があると言う。
「クモは食えんが、サソリは一応エビみたいなものだな」
チビがそう言うと、ピーコたちも盛り上がった。
「毒のあるエビ! 毒のある魚がフグだから、きっとサソリは美味しいでやんすね!」
「食べたい!」
「いい出汁もきっと出るだろうの」
確かに間違ってはいないはずだ。
「よし。サソリは身も持ち帰ろうぜ」
「スパイシーなエビかもしれないなあ」
僕たちはダンジョンに向かいながら、いつもの如くわいわいと話をしていた。
一緒に歩く竜人族の戦士たちは、
「ず、随分と余裕だな。人族の力を見せてもらおうか」
と言って、なぜか半歩距離をおいた。なぜだろう……。
竜人族は数人のグループを組んで日常的にそのダンジョンに潜り、食料や素材や魔石を調達しては、数日おきに港町へ行ってそれらを売っているそうだ。
港町には全ての獣人たちの集落が集まって、お互いの集落からの売り物を売り、足りないものを買う場所になっているらしい。その市が定期的に開かれているそうで、ぜひ市の立つ日に港町を訪れてみたいものだ。
「ここか」
ダンジョンの入り口に着いた。
ダンジョンの入り口というのは、様々な形態をしている。洞窟の入り口のような見た目をしていたり、納屋の入り口がそのままダンジョンの入り口になったという例もあった。しかし、そういう「入り口」だとわかりやすい入り口もあれば、入ってからわかる入り口もある。
ここはそういう入り口だった。これまでの景色が続いており、周囲の岩や乾いた砂の中、そこが特別変わっているようには見えない。ただそこから高い濃度の魔素が感じられ、入り込んだら危険なため、目印としてとんがった形の岩とサボテンのような植物で入り口だとわかるようにしていた。
僕たちはダンジョンに臨むにあたって、魔術を使うかどうか相談したのだが、人族は獣人やエルフと違って精霊魔法は使わないということは知られていると聞き込んでいたため、遠慮しないことになった。
なので、せいぜい狩らせてもらおう。お裾分けをすれば友好的になるかもしれないし、強いところを見せておけば休戦協定破棄などということを防げるかもしれない。
「さあ、行こうぜ」
僕たちはダンジョンに足を踏み入れた。




