若隠居の大陸横断は牢からスタート(4)
ギルドはどこか寂れた印象を受けた。規模も小さいようで、中に入って依頼板をチラリと見ると、依頼自体が少ないように見えたし、閑散としている。
「お疲れ様です」
ギルドマスターがカウンターで、額をカウンターにぶつけるほどに下げた。
見た目は僕たちと同じ人族に見えるが、彼もハーフなんだろうか。
「お口添えしていただいたようで、ありがとうございます」
そう礼を言えば、ギルドマスターは幾分ホッとしたような顔をした。
「そう言っていただけると……。もし本部に知られて査定に響いたら、せっかく来年にはミリタリアに帰れるのに任期が延びかねない……!」
そう、ブツブツと呟いている。
ミリタリアというのは向こうの大陸にある国の名前で、農業国だと聞いた事がある。
それにしても、どうもここのギルド勤務というのは不人気らしいな。
「それで、この子たちが俺たちに指名依頼を発注するから受理してもらいたい。で、俺たちが受けるから」
幹彦がそう言って、ミリたち三人を前に出す。
「では、用紙に記入をお願いします」
シンがペンを取って、記入を始めた。
ミリ、アケ、シンを兎人族の村まで送り届けること。依頼料は、ラドライエ大陸についての情報提供。
これはここに来る途中で話し合って決めたことだ。こちらのしきたりなどを聞けたらありがたい、という程度だろうけど、依頼書があればこの先の移動もしやすくなるだろうというのもあるので、これで構わない。
ギルドマスターは依頼書を受け取って目を走らせ、控えを取って幹彦に渡した。
「言うまでもありませんが、ラドライエ大陸は獣人とドラゴンの大陸です。獣人と人族は現在も停戦中であり、個人差もありますが、嫌人派は人族というだけで過剰な反応をします。言動には十分に注意をお願いします。
こちらにしか生えない薬草もありまして、常時買い取りをしています。こちらの薬草一覧はそこの書棚に図鑑を置いてあります。ドラゴンを筆頭として、エスカベル大陸とは魔物の種類も違う物がいますので、ご注意を。
万が一獣人とトラブルになったら、そこの代表と獣人族の評議会、それとこのギルドへ連絡を入れるようにしてください。それで嫌人派の一方的な制裁を防止できます。大体は」
大体というのは、あの憲兵のような事例があるからだろうと思う。そう思うと心許ないが、いざとなれば転移で逃げてしまおう。
そう考えてチラリと幹彦を見ると、幹彦も小さく苦笑してきたので、同じようなことを考えていたのだろう。
それで依頼の受注は済んだので、僕は薬草図鑑のチェックをし、幹彦とチビは依頼票と地図を確認しておく。依頼票を見ておけば、どこでどんな魔物がいるのか、どんなトラブルが起きているのかなどがわかる。
ミリたちは物珍しそうについて回ってそれらを一緒に眺めた。
そうして地図の前で集まって兎人族の村の位置を確認し、準備を整えたら出発することにした。
「乗合馬車ってやつが少ないんだな」
時刻表を見て幹彦が言う。村を回る巡回馬車のようなものがあるらしいが、それが来るのは数日に一度らしい。ここを出て兎人族の村へ向かうのを探すと、運良く今日の午後にあった。
「あったぜ。昼過ぎだ」
「先に予約がいるのか訊きに行こうか」
「そうだな。これを逃したら、次の一週間後にするか、徒歩で向かうかだもんな」
聞いていたギルドマスターが言った。
「チケットの販売はここが請け負っていますよ。乗合馬車はここのギルドの業務のひとつなので。御者兼護衛として冒険者を乗せているんですよ。
大抵の獣人は、自前の馬車か馬代わりの草トカゲを使うか歩いて移動するんです。乗合馬車を使うのは少ないですから、それで便数も少ないんです」
そういう事情があったのか。なるほど。
そこで僕たちは次の便の予約をして、それまでに買い物と昼食を済ませることにした。




