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疑惑の地下室

 幹彦は組んでいた腕をほどいて僕を見た。

「穴の底まで見に行かないか」

「そうだな」

 なので、歩きやすい靴を履いて地下室に入り、穴の底へ向かった。

 土ばかりで光源もないのに、どこか明るいのは相変わらずだ。そして今回も気を付けて、どこかに通じていそうな穴や隙間がないか探したが、長い距離を歩いて穴の底に着いても、全く見当たらなかった。

「チビはどこからジビエを獲って来るんだろう。

 いや、どこにもチビはいなかったな。チビ、どこに行ったんだ?」

 穴の底で、僕は途方に暮れそうだった。

 久しぶりに来た穴の底だが、あの日のままで、円形の広場のようになったそこには、焼け残りも焼け跡すらもない。その上、あの宝箱も無くなっていた。

 箱は流石に大きいし重くて、抱えて上まで持って行くのが疲れそうだと思ったので、そのままにしておいたのだ。まあ、何かをしまう事もできるので。例えば肥料とか。

「なあ。ここに魔剣もあったんだよな」

「ああ。この辺かな。宝箱があったのは」

 幹彦は僕に向き直った。

「なあ。チビに襲い掛かってたナメクジだけどな。本当にナメクジだったのか?」

 僕はキョトンとしてから、思い出した。

「ブヨブヨしてて、火に弱かったぞ?まあ、今ならあれだな。ちょっとだけスライムにも似てたかな」

 目を逸らしながら申告した。

「ああ。俺もちょっとそう思う」

「でも、形が丸くなかったよな」

「それはチビを呑み込もうとして変形してただけなんじゃ?」

 何か言い返さなくては。

「火を投げつけたら、ビヨーンってなったのは?」

「火に弱いタイプのスライムだったんだろ。たぶん」

 ダメだ。どんどん退路が無くなって行く。

「スライムがいたって事は、ここは地下室じゃない。ダンジョンだ」

 幹彦が重々しく言い、僕はガックリと肩を落とした。

 ダンジョンだったらダンジョン庁に報告しなくてはならないし、報告したら、こんな風に家庭菜園などに使えないんじゃないだろうか。

 せっかく収穫できるようになって楽しくなって来てたのに。

「あ。踏破したって書いてあったな。という事は、ここはあの日に俺達が踏破したって事だよな」

「え。いつ?どうやって?スライム1匹だけのダンジョンってあるのか?」

 幹彦はチチチと指を立てて言う。

「穴の下から連続してパパパンって聞こえただろ?それ、下にいたほかのスライムが次々に破裂して死んで行った音だったんだろ」

「ああ、なあるほど。

 そう言えば、小石が一面に転がってたな。あれって魔石だったのかな。よく見てなかったのと、すぐに消えたからわからないんだよなあ」

「その消えたってのがわからないんだけどなあ」

「僕にもわからないよ」

 黙って、どこかに1つくらい転がっていないかと目で探した。どこにもなかったが。

「戻るか」

 僕達はキッチンへと引き返し始めた。

 坂を上り切り、キッチンへと近付いて行く。

 今はすっかり大きくなったチビの持って来た枝のそばで足を止めた。

「……これが精霊樹とか言うんじゃないだろうな」

「でも、桜とか紅葉とか松とか、知ってる木のどれとも違うし。ネットで検索してみたけどわからなかったぜ」

 確かに、成長も早すぎるのかも知れない。

「まさか、うちのプランターの植物が良く育って美味しいのも、僕に実は家庭菜園の才能があったんじゃなくて?」

「サボテンも枯らすし水に浸けておくだけの水耕栽培のヒヤシンスでも全滅させるお前に、そんな才能があった方が驚くぜ」

 僕は幹彦の無情な言葉に打ちひしがれた。

「家庭菜園とペットを楽しむ隠居生活は……」

 溜め息が重なった。

 そしてキッチンへと足を向けた時だった。背後で気配がして振り返ると、木のそばで一部が蜃気楼のように空気が歪んでおり、そこから何かがニュッと出て来た。長くてぐったりとした首、だらりと下がった翼、その体を咥える白い大きな犬か?

 犬は咥えていた物を足元に置くと、伸びをして

「ガウゥ」

と鳴き、ふと気付いたようにこちらを見た。

 目が合った。

「チビ?」

 犬はしまったと言いたげな顔をし、次の瞬間にはするするといつも通りの大きさのチビになると、

「ワン!ワワン!キュウゥ」

と鳴いて足に頭を擦りつけて来た。

「え。チビ、だよな?」

 呆然とする僕をよそに、本日の獲物を覗き込んだ幹彦は、

「何だ、これ。新生物?ワイバーンとかいうやつに似てる?」

と驚いた声を上げ、こちらを勢いよく振り返った。





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