面倒ごと
資源ダンジョン近くのウイークリーマンションには、探索者ばかりが住んでいる。
そのほとんどは河岸を変えようとしてマンションを出て行くのだが、中には死んで遺族が手続きをするという場合がある。
今日がその日だった。
別に立ち会う必要もないのだが、不動産屋へ定期連絡のために行ったらそう聞いたので、何となく見ておこうという気になって立ち会った。
入居していたのはまだ若い青年で、友人達と一緒に探索者になってチームを組んでいたらしい。しかしここで残念ながら命を落とし、親と姉が、遺品を引き取りに来ていた。
「だから、探索者なんてやめろって言ったのに」
母親が泣きながら、少ない衣服を畳んで言う。
「家出してでもやるって聞かなかったんだ」
父親はそう言うが、納得しているわけではないだろう。
「何で探索者なんてできたの。危ないところなんだから、警察でも自衛隊でもやればいいじゃない」
姉は怒ったように言って、弟のものだった曲がった剣を睨みつけた。
別に、正論が訊きたいわけじゃないだろうから、必要人数が多すぎたからだとかそういう事を言ってもしかたがない。残されたチームメイトも、項垂れて聞いていた。
「こんなに恨めしいのに、今はもうダンジョンなしではやっていけないようになってる、この世界が悔しい。突然できたダンジョンが憎い」
母親はそう言って、泣いた。
すっかり落ち込んだ気分で戻って来たら、神谷さんから電話があった。
表向き魔道具の開発者の事務所としている所にハッキングが仕掛けられたそうだ。海外からで、元々ダミーでしかないので発注受付程度しかプログラムも入っていないため、被害はない。こういう事を恐れて、ハッキングされてもいいようにダミーを置き、仕掛けられたらウイルスを感染させるようにしておいたという。
開発者は嬉々としていたらしい。
「なんかこっちの世界は、色々と面倒臭い事が多いなあ」
領収書をまとめながら言うと、神谷さんが
「こまめにまとめていればもっと簡単ですよ。日課にしてください」
と言い、幹彦共々、
「はあい」
と返事はしておいた。
エルゼに行くと、エイン達が騒いでいた。
何でも、教会のおみくじが流行りだからと買ってみて、それに従ってみたら、大当たりだったらしい。
ラッキーカラーが赤、ラッキーアイテムがロープ、ラッキーナンバーが6で、ダンジョンで赤と青のどちらのドアを開けるか迷った時赤を開けたらセーフで、青だったら転移の罠が待っていたそうだ。更に霧で視界がゼロになった時はロープで互いをつないではぐれないで済み、数字の書かれた石を一つだけ選んで秤に乗せるところで6を選んだら正解で、かなりのレアものが入った宝箱が出て来たそうだ。
それでお祝いをする事にしたらしい。
「精霊の遺体が閉じ込められた水晶?」
「ああ!学術的価値が高いらしくて、世界中の学者や研究機関が手に入れようと、オークションではかなりの金額になるのが目に見えているんだぜ!」
「お前らにも世話になってるし、おごらせてくれよな!」
エイン達は上機嫌でそう言って肩を叩き、ギルドの隣の居酒屋に誘った。
それで、ほかにも呼ばれていた連中と乾杯だ。
喜び、羨ましがり、自分もおみくじをと買って来て内容に笑ったり首を捻ったり。
一緒になって笑い、食べながら、皆を眺める。
「こっちの皆は、素直だな」
「そうだな。気持ちのいいやつらばっかりだぜ」
「面倒もないし」
「あっても、単純に解決するしな」
「それに隠居だから、手の届くところしか責任も持たないし」
「隠居最高だぜ」
僕と幹彦はグラスを合わせて何度目かわからない乾杯をした。あとどのくらいエルゼでこうして騒げるのか。
もしくは、この世界か日本か。
選ぶ時は、近付いている。




