頼りは気配察知
幹彦とチビが子供たちの気配と魔物の気配を探りながら、進んでいく。
「上手くやり過ごして逃げていてくれていたらいいんだけど」
心配だ。でも、大声で呼ぶわけにもいかないし、電話をかけてもつながらない。
「どうだ」
訊くと、
「この辺にはいねえな」
と幹彦がいい、チビも同意する。
「もっと奥に進んでいるようだな」
それでこちらも足を速める。
時々遭う敵はスライムとゴブリンで、そう強い敵でもないと思えるのはこちらが既に慣れているからで、小学生には脅威に違いない。
手早く片付けて早く奥へと進んだ。
子供たちはその間も、奇跡的に身を隠して逃げ回っていた。
しかし恐怖心はどんどんと積み重なり、いらだちが募る。道に迷ったのがなにより不安を倍加させていた。
「ツチノコなんて信じるんじゃなかった」
「こけし、今はそんなこと──」
「今更そんなこと言ってもしかたないだろ!」
こけしが文句を言い、フッチーがそれに言い返し、シューマイが取りなして、マリンがおろおろとする。完全にこれの繰り返しになっていた。
「フッチーはいっつもそうでしょ」
「そんなに嫌なら、おれと一緒に来ないでどっか行けば」
「わかったわよ。行ってやるわよ!」
こけしは反対を向いて、歩いて行った。
「こけしちゃん!」
「こけし、危ないって!」
シューマイとマリンが慌てるが、フッチーは面白くなさそうにふくれっ面をして、よそを向いた。
「バラバラになったら危ないよ。ケンカはここを出てからすればいいから、それまでは協力しあおう」
シューマイが言い、フッチーが渋々それを認めたとき、こけしの悲鳴が聞こえた。
「きゃああ!」
「こけし!?くそっ!」
フッチーが飛び出し、一歩遅れてシューマイとマリンが続いた。
こけしはすぐに見つかった。距離にしたらほんの数十メートルしか離れていないだろう。角を曲がってすぐのところでうつ伏せに倒れ、足首をゴブリンに掴まれて引きずられて行こうとしていた。
後先も考えず、フッチーは飛び出してそのゴブリンに殴りかかった。
「離せ、この野郎!」
ゴブリンはニタニタとしていたが、不意の攻撃に足首を掴む手を離した。
すぐにシューマイとマリンが近寄り、マリンはこけしのそばに膝をついて体を起こし、シューマイとフッチーがその前に立つ。
「こけし、マリン。離れてろ。いや、逃げろ」
「でも」
「大丈夫。2対1だ」
「それにおれにはこれがある!」
フッチーは海岸で拾って持っていた長さ40センチほどの流木を構えた。剣道の師範代の構えをなるべく思い出して構えてみた。
ゴブリンは最初は不満そうにそれを見ていたが、エサが増えたと思ったのか、
「グギャ?グギャギャッ!」
と鳴いて、棒を構えた。
「いけそうか、フッチー」
「わかんない。けど、こいつがまさやんより弱かったらおれが勝てる。と思う」
フッチーはなるべく震えているのがバレないように気をつけて答えた。
「わかった」
シューマイはそう言って、ツチノコを捕獲しようと思って持って来たゴミ袋にその辺のこぶし大の石を入れて、細くよじって持った。
「行くぞ!メーン!」
フッチーが先制攻撃を仕掛ける。上段からの打ち下ろしだ。
ゴブリンはこれを避け、フッチーの肩に棒を打ち下ろした。
「あっ、てめえ、それは反則だぞ!?」
「フッチー、こいつは剣道を知らないんだよ」
言いながらシューマイがゴミ袋に入れた石をクルクルと頭上で回して、ゴブリンに振り下ろす。遠心力で力を増したせいで、こぶし大の石といえど痛い。
しかし、倒すまでには至らない。これでどうにかなるなら、探索者は苦労しない。
ゴブリンを余計に怒らせるだけになった。
「ギャアア!」
しかも、声に呼び寄せられたのか、ゴブリンが5体に増えた。
こけしとマリンは抱き合って震えた。
「こけしちゃん、こけしちゃん」
「大丈夫、大丈夫」
言いながら、現実にはアニメや特撮番組のように、正義の味方なんて来ないということに、絶望した。
先頭に震えながらも立つフッチーとシューマイに、棒が振り下ろされた。




