小さな探検隊
怖くないと言い、平気なフリをしてはいるが、へっぴり腰なのは明らかだった。
しかしお互いに、それを指摘する余裕はない。
クラスのムードメーカーで剣道が好きな、フッチーこと渕上雄哉。
好奇心旺盛な野球少年、シューマイこと志内 隼。
おとなしくて怖がりで、自分の意見がなかなか言えない、マリンこと毬谷結菜。
真面目でクラスのまとめ役だと教師からも親からもクラスメイトからも思われている、こけしこと益田美和。余談ながら彼女だけ名前からのあだ名ではないのは、髪型がおかっぱでこけしみたいだと言われたのが原因だ。
「こんな洞窟、前からあった?」
シューマイが辺りを気にして、何となく声を潜めながら言った。
「あんまりよく見てなかったから、よくわかんないな。でも、いきなりできるわけないから、雑草とかでかくれてたんじゃないか。たぶん」
あっさりとフッチーも返しながらも、目は落ち着き無く周囲を見回している。
「お、お、お化けとか出ないよね」
マリンが泣きそうな声で言いながら、こけしの服を掴み、こけしの背中以外は見ないように注意して言う。
「お、お化けなんていないわよ。本当は」
こけしが泣くのを我慢するような声で言った。
探検隊の4人は待ち合わせてここに突入したものの、異様な雰囲気にのまれて、ツチノコどころではなくなってきていた。
だが帰ろうと言えば、来週のプリンはどっちのものかわからなくなるのと、びびっていると思われるのが嫌なための意地で、奥へ、奥へと足を進めていた。
「あ」
何か影がよぎったような気がして、シューマイは声を上げた。
シューマイの見ている方を見た皆は、一瞬ツチノコかと思ったが、絶対に違うと即座にわかった。なぜなら、ツチノコは「ヘビではないのか」と言われている通り、ヘビに似た姿をしているはずだ。昨日のフッチーの話でもそうだった。
だがそれは、どうみてもヘビとはかけ離れていた。
2本足で立ち、背丈は自分たちと同じくらいで、肌の色が深緑色だ。そして片手に棒っきれを持っていた。
喉がくっついたようになって、声が出ない。
まあ、悲鳴を上げなくて正解だっただろう。何の経験もない子供4人など、簡単にやられてしまうだろうから。
それは運良くこちらには気付かず、歩き去った。
それを身を潜め、息も潜めて見送ると、こけしが声を出した。
「い、今の何?ツチノコじゃないわよね」
「し、知らねえよ」
フッチーが言うのに、こけしがかみつく。
「フッチーがこんな所に入ろうなんて言うから!どうするのよ!」
「うっせえな!こけしだってなんだかんだ言いながら入ったくせに!人のせいばっかりにすんな!」
シューマイはシイッと指を唇の前に立て、真面目な顔で言った。
「静かにしないと見つかるよ」
それでマリンは、ヒッと小さく声を上げて泣き出しそうになる。
「これって、ダンジョンかも知れないな。ゲームに出てくる魔物みたいだったし」
シューマイが言うと、フッチーが目を輝かせた。
「ダンジョン!?凄え!ツチノコよりも大発見じゃねえ!?」
それをこけしがじろりと見やる。
「何言ってんの。ものすごく危ないのよ。探索者の人でも死んじゃうときがあるんだよ。知らないの」
マリンは泣きだした。
「どうすんだよ」
「見つからないように外に出て、大人に知らせなくちゃ」
「それがいいかな」
そうして4人は元の方向へと進み始めたが、思わぬ事が起きる。
化け物が現れ、それから姿を隠しながら逃げているうちに、迷子になってしまったのだ。
「ここ、どこよ」
途方に暮れた4人は、自分たちだけでここに入ったことを初めて後悔した。




