離れ行く世界
男女2体の魔導人形を作った。体の方は幾分簡単だったが、顔は難しかった。ああでもないこうでもないと作っていると、どこかで見た事のあるような顔付きの40歳前のような見た目になった。
遠縁の夫婦で、セバス・マゼンダとハンナ・マゼンダという事にしてある。勿論、例の指輪はハンナの指で輝いており、2人は傍目にもラブラブな新婚だ。
そして実は異世界から来たと告白し、精霊樹の小枝を仕込んだ携帯電話を持たせた。
これでエルゼ側の連絡員もできた。日本にいる時に何かあっても大丈夫だ。
僕達は後を頼んで、地下室へと戻った。
相変わらず地下室は精霊たちが飛びまわり、ここだけクリスマスのようだった。
豆太郎は地下室の入り口を守りながら、リクエストに従って置いておいたCDに合わせて体を揺らし、ご機嫌だ。
「やれやれだな」
幹彦は言いながらコーヒーを淹れ、僕はエルゼで見付けたクッキーを出した。素朴な味わいがこちらのものとは少し違ってどこか懐かしい味わいがあるものだ。
「上手く起動できてよかったよな。
それにセバスとハンナも再会できたし」
チビとピーコとガン助とじいもおやつとわかって大人しくテーブルのところに座り、
「第二の人生っすね」
「執事とメイド長にすればよかったのに」
「ますます貴族疑惑が強くなるぞ」
「五十歩百歩というやつじゃないかの」
などと話していた。
と、チャイムが鳴って神谷さんが訪ねて来た。
今更、チビたちがテーブルでおやつを食べていようが、雑談していようが驚かない。
向こうでも幽霊を使った魔導人形を置いた事を言うと、
「これでいつでも連絡が通じてよかったです」
と言いながらコーヒーを飲み、眼鏡を拭いてから口を開いた。
「ダンジョン外に魔素の流出が見られていましたが、どうも、止まったようです」
それを聞いて僕も幹彦も、
「よかったですね。魔術犯罪も起こり難そうで」
と肯定的に捉えたが、チビは淡々として言った。
「そうか。では、ふたつの世界が離れる日が近いというわけかも知れんな」
それに驚いたが、どこか納得もした。
そういう日が来るとは聞いていたので納得しはしたが、思っていたより早いとは思う。
「そうですか。ダンジョンはどうなりますか」
神谷さんはチビにそう訊く。
「ダンジョンは残るだろう。ダンジョンコアが稼働している限り。
魔素が濃くなり過ぎた世界が、どうにかしてそれを薄めようとするようにして世界を接触させ、魔素を流入させる。それでつり合いがとれれば、自然と離れる。そういうものだ」
チビが言う事を僕達は真剣な顔で聞き、考えた。
「その内地球の魔素も濃くなるのか。それでどこかの世界と接触するのか」
訊くと、チビはクッキーをボリボリと噛んでから答える。
「地球の場合は、元々魔素が無かったしな。魔素がダンジョンの外に充満しなければ接触することも無いかも知れんが……まあ、そこまでは誰にもわからんな」
神谷さんは考え、無意識のように眼鏡を拭いた。
「ダンジョンの氾濫を起こさなければ、今の状態を維持できる可能性が高いというわけですね。
あと、異世界とのつながりが切れれば、ダンジョン外への魔素の流出も収まる可能性がありますね」
「ま、よくわからんとしか言いようがないがな」
神谷さんはしばらく話をしてから帰って行き、僕と幹彦は大きな溜め息をついた。
「いよいよかあ」
「ああ。生きている間になったな」
エルゼの知り合いの顔が、脳裏に浮かんだ。




