百年の恋
向かう途中に聞いたところでは、セバスの恋人は、メイドをしていた平民の子でハンナという名前だった。
どちらも草花が好きで、できれば田舎で草花の手入れやポーションを作って暮らしていきたいと言い合っていたそうだ。
そうして彼女の家に行ってみれば、彼女はいなかった。
まあ、それも仕方がないのかもしれない。事件が起こったのは80年前らしいのだから。
ハンナの妹の孫がおり、当時からやっている食堂を切り盛りしていた。
「ハンナ・ケラーは、私の祖母の姉ですけど。一生独身で、9年前に亡くなりましたよ」
ハンナさんの知り合いの子供という事にして訊くと、そう言われた。
墓の場所を訊いて行ってみたが、いないようだ。
「成仏したのかなあ」
セバスは苦笑した。
「ついでに、セバスの家も行ってみますか」
訊くと、セバスは考え、頷いた。
「お願いできますか。珍しい薬草の品種改良をしていた花壇が気になります」
それは僕も気になった。
「それは気になりますよね。行きましょう」
同じくロメルテ領の領主の家へ向かう。
道すがら、こちらは何をしていたのかと訊かれ、目的を思い出した僕達は、魔導人形に入って留守番をしてくれる幽霊を探しているのだと答えた。
「魔導人形!本で読んだ事はあります。昔、精霊がいた頃にあったとかいうものですよね。復元したのですか」
「迷宮で出て来たのを解析して、作ったんですよ」
「それは興味深い!」
話が弾んだまま、領主の家に着いた。
だが、高い塀に囲まれているし、そうでない所には見張りの警備兵がいる。
「困ったな。ピーコが指輪を咥えて飛んで行くしかないかな」
警備兵は、真面目そうな上、強そうだ。昔のお坊ちゃんが、と言って入れてくれる気がしない。
「インビジブルで固まって行けば何とかなるかもしれねえぞ」
幹彦が言い、インビジブルをかけて門に近付き、警備兵の間をすり抜けて中に入った。
そのままセバスの誘導で奥へと進んで行くと、広い馬場に着いた。
「まさか」
「花壇を潰して馬場にしたようですね」
セバスは寂しそうに苦笑した。
が、その目が見開かれる。
「あれは……ハンナ?」
馬場には訓練中の兵と馬しかいなかったが、セバスが馬をものともせずに歩いて行き、馬を通り抜けて進んで行くと、その前方に女性の幽霊が現れた。
そして、ガシッとセバスと抱き合う。
彼女がそうらしい。幽霊の姿はセバスと同じく若い姿だった。
「いたよ、幹彦」
「いたな、史緒」
彼女にしても、心残りだったのだろう。
それで彼女を連れて家の外にインビジブルのまま出て、彼女にもリクルートをかけてみた。
「セバス様とご一緒できるなんて、夢のようでございます」
「ハンナ。死んでしまったぼくたちだけど、もう一度一緒に過ごせるまたとないチャンスだよ」
こうして、僕達はセバスとハンナという2人の幽霊のリクルートに成功した。
情けは人の為ならず。
「もう1体人形を作らないと」
僕達はウキウキとしてエルゼの家に帰った。




