楽しい心霊スポット巡り
まずオーソドックスに墓場に行った。
「見当たらないなあ」
見渡してみたが、幽霊は見当たらない。もしくは、いるのかも知れないが見えない。
これは大問題だと思うが、原因がわからないし、急に霊能力を付ける事もできないので、仕方がない。
「まあ、きちんと祀られているんだから、満足してるのかもなあ」
言うと、幹彦もなんとなく頷き、
「次に行こうぜ」
と切り替えた。
次は刑場だ。
ぼんやりとしたものやはっきりとしたもの、色々いた。
「いたぞ」
「いたな」
僕も幹彦も興奮してしまった。
「よくも私をはめたな」
「私は何もしてない、無実だ。それなのに、ああ。恨んでやる。この国が亡ぶように呪ってやる」
ぶつぶつと各人が色んな主張をしていた。
「幹彦。あんまり恨みの念や執着が強いのは危険じゃないか」
こっそりと言うと、幹彦も真面目な顔で同意した。
「だな。体を持った途端何かしでかされちゃあたまらねえからな」
ガン助とじいとピーコはそんな彼らの顔を覗き込んで事情を聴いていた。
「この人、正妻に毒を盛って殺したそうっすよ」
「こっちの人は強盗殺人だって」
「横領の濡れ衣を着せられて投獄され、手の者に消されたのか。辛いのう」
身の上相談をしそうな勢いに、チビが溜め息をついた。
「次に行った方が良さそうだな」
同感だ。
次に行ったのは、強盗に一家が惨殺された商家だ。
「ああ……いるな」
「うん。家族と使用人かな。でも、なあ」
カウンターの中で恨めし気に立っているが、声をかけづらい。というのも、別の人間がそこで商売をしている最中だからだ。
ヘタをすれば、営業妨害とされて訴えられそうだ。
どうにか見えたと思えばこれだ。
困って回れ右すれば、こちらを見るセブンと目が合った。
「あ。こんにちは」
「何してるんだ、お前ら。さっきも一家心中した家を眺めてたしな。
まさか心霊スポット巡りじゃねえだろうな。呪われるぞ、やめろよ」
見られていたとは。
セブンは言いながらわずかに後ずさり、それが聞こえたらしい周囲の通行人も、ギョッとしたような顔で僕達から距離を取る。
「ち、違いますよ、いや違わないのか?」
幹彦が言い訳しようとして混乱した。
「違いますって。ちょっと、ああ、散歩です」
「散歩だあ?」
セブンはジロジロと僕達を見ていたが、はあ、と溜め息をついた。
「ま、霊の1体や2体、どうとでもできるだろうからな。この辺じゃあそう大した力のやつはいないって司祭も言ってたし」
そう言って、「じゃあな」と離れて行った。
僕達はホッと胸を撫で下ろした。
「やべえ。次行こうぜ」
「ああ、そうだな。次にいそうなのは、遊郭か」
借金で嫌々働かされて恨みがつのった女の霊とかがいそうだ。
いそうだが……。
「ほかにしねえ?」
「そうだな」
他に行く事にする。
「じゃあ、古戦場跡か」
チビが飽きて来たように欠伸をしながら言った。
「いそうだな!全部は見えなくても、いくらかは見えるかも!」
「そうだよな!無念を抱えて死んだ兵の霊が残っているはずだよ!」
僕達はいそいそと、次の心霊スポットへと足を向けた。
国境のそこは広い湿地帯で、文字通り泥沼の戦いが行われた場所らしい。敵も味方もたくさんの将兵が戦い合い、泥沼に不意に現れた魔物に敵味方の区別なく襲われ、泥で満足に動けないまま死んで行った悲劇の場所だと聞いた。
語ってくれたジラールは、
「沼に住む泥喰いが見付かったのはそれが最初で、沼に行く時は泥喰いの嫌がる油をまくといいんだぜ」
とも教えてくれた。
見回してみる。
「いねえな」
「うん。見えないだけかもしれないけど」
僕と幹彦が言うと、チビが冗談めかして言った。
「案外、やっと泥から抜けたってホッとして成仏したのかも知れんぞ」
それに一緒に笑ってから、そうかもしれないと考えた。
心霊スポット巡りは、まだ終わりそうにない。




