宝箱の中身
人形は幼稚園児程度の大きさで、ワンピースのようなものを着ている。材質は何かわからないが、柔らかくて、目を閉じているその顔は、ヒトが眠っているような錯覚を覚えた。
「高級フランス人形か?だとしても俺はいらんし、史緒もいらねえだろ。売ったら高いとか?」
幹彦が困ったように眉尻を下げてこちらを見るので、よく視た。
「あ。魔道具だって。どこがどういう魔道具なんだろうな」
僕は鑑定結果にちょっと嬉しくなって、人形に手を伸ばした。
なかなかの重さだ。この重さとこの身長は、解剖した経験からして8歳前後の平均というところだろう。
腕や足などを曲げてみると、ヒトの関節の可動域と同じだった。服を脱がせば何かスイッチか魔石をはめこむ所などがあるかと思って脱がしかけたら、チビが呆れたように言う。
「持ち帰って調べればいいだろう。
これはたぶん精霊人形だろう。話には聞いた事があるぞ。高位精霊を人形に入れて、使役するものらしい。メイドとか子守りとかその程度なんだろうがな」
「なるほど。この遺跡が現役の頃はそういう使われ方をしていたんだな。その後精霊が消えて、使えなくなったと」
僕はしみじみ頷き、人形を空間収納庫に入れた。
廊下へ出ると、向かい側の部屋を見る。ここのドアは壊れていて、中が見えたので宝箱のそばにいる番人と目が合った。
その途端、走って来るその四つ足型のゴーレムを、ガン助とじいが体当たりで足を吹っ飛ばし、ピーコが顔面を鷲掴みにするように掴んで頭をひねり取って倒す。
それで僕達は部屋に入った。
「こっちは何かな」
「向かい側ですし、男の子の人形かも知れやせんね」
「ありうるな、うむ」
それで僕と幹彦も期待した。
「それがあるんだし、史緒があけてみろよ」
「いやあ、自信ないなあ」
「だめで元々だって」
チビが罠の無い事を確認したので、僕は少しくじ運に期待した。
「じゃあ、行くぞ」
皆で見つめる中、宝箱の重々しいふたを開ける。
「……あ……」
「……まあ、使うじゃろうし……」
「……どんまいっす」
「……まだ終わりではないぞ」
チビたちの慰めを、がっくりと膝をついた姿勢で力なく聞く僕の肩を、幹彦が叩く。
「まあ、あれだ。その、気にするな。もしかしたら凄くいいものかも知れないぜ」
言われて、視る。
たわし。丈夫な新品。
「くそっ。もう宝箱は開けないからな。
誰が宝箱に中身を入れているんだ?顔を見せろ!」
僕のくじ運は、ある種、裏切らなかった。
その後も地図を書きつつ進み、その部屋に着いた。
広間になっていて、人型のゴーレムが3体いるほか、有名SF映画に出て来る円筒形のロボットに似たものも2体いた。
「よし一気にいくか」
チビがそう言ってまずは全体を凍らせる。それを今度は、僕が炎を竜巻に混ぜて全体を熱する。その繰り返しをしていると、ガコンと音がしてゴーレムの腕が落ちた。
「よっしゃあ、任せろ!」
言うと同時に幹彦が突っ込んで行って刀で斬り始め、ガン助とじいは歓声を上げてゴロゴロと転がってボーリングのピンの如くロボット風のものを派手に転がした。
それでロボット風のものはジタバタと起き上がろうともがいている感じだったが、ピーコが胸の電球みたいなものを突いて壊すと機能を停止したらしく消えて行った。もう1体は僕が薙刀で突いておいた。
魔石を拾い、インゴットや宝石の原石というドロップ品を集めると、宝箱だ。
先に言っておく。
「幹彦。頼む」
幹彦は頭を掻いてから、苦笑して
「よし。開けるぞ」
と宝箱の前に座った。罠はなかった。
出て来たのは籠手で、魔術も物理攻撃も防ぐ盾を形成するものだった。
「おお!」
「やっぱり中身を準備した奴、ちょっと出て来いよ!」
僕は天井に向かって叫んだ。




