ジャイアントキリングと無敵の隠居
オオカミの群れがジャイアントキリングのメンバーも見えるようになると、彼らは目に見えて狼狽え始めた。
「どうしますか。あれ、僕達で相手をしますか。それとも、あなた達がやりますか。彼女ってスライムしか攻撃した事がないんでしょう。だったら、敵いませんよ」
言うと、彼らは狼狽え、視線をせわしなく動かした。
「だって、俺達だって、なあ」
「ああ。む、無理だ」
そんな言葉以上に、彼らの怯える顔や決して合わそうとしない視線が、オオカミの群れに立ち向かえない事を示していた。
僕達はそれ以上何も言わず、克美さんの所へ足を向けた。
克美さんはへっぴり腰と震える腕で剣を構えていたが、十二頭いるどのオオカミに目標を定めればいいのか迷うように、剣先がフラフラとしていた。
「きき来たらケガじゃ済まないわよ!」
震える声で言っているが、言葉は通じていないし、勢いすらもないのでなんの牽制にもなっていない。
幹彦が近付いて行っていきなり1頭を斬り伏せた。
オオカミが幹彦を見て脅威として認定し、克美さんは驚きで固まってしまった。
「史緒はあっちを頼む!」
「わかった!」
幹彦が派手に動いてオオカミを引き付けるのと同時に、僕は克美さんの近くへ行く。
この程度は大した脅威ではないので、僕もチビもピーコもガン助も落ち着いて幹彦を見物する構えだ。
幹彦は刀を振りながら緩く一歩を踏み出したようにしか見えなかったが、それで一頭がコロリと頭を落とした。もう一歩ゆらりと進めば、二つ落ちる。
「相変わらず、きれいだね」
「ワン」
「ピー」
喋っている間にも、オオカミは数を減らしていく。
幹彦が強敵だと認識した数頭がこちらへ向かって来るが、風の刃で斬り、それを潜って来た一頭は薙刀で頭を落とす。
大した時間も労力もかからず、オオカミの群れを殲滅した。
それで克美さんは安心したのかその場に座り込み、チビやピーコと僕と幹彦は魔石とドロップ品である毛皮や牙を拾い集めて回った。
ちらりと見ると、克美さんはこちらを見ていたが、大声で泣き出した。
「どうせ私はだめよ! うわあん!」
「うわ、面倒臭え」
幹彦が小声で言って眉を寄せた。
「えっと、一人で行動するのは危険ですよ。じゃあ」
それで背を向けたのだが、足音が近付いて来たと思えば、背中にタックルを浴びた。
「げっ」
「ぐうっ」
僕と幹彦は倒れるのをどうにか堪え、恨めし気な目を背後の克美さんに向けた。
同時に、ジャイアントキリングのメンバーも走って寄って来た。
「ありがとう!」
「助かったよ!」
「克美も、無事でよかった!」
克美さんは、泣きながらく潜った声で訴える。
「そうよ、わかってるわよ。私くらいの女はいくらでもいるし、飛びぬけて歌が上手いわけでもないの、わかってるわよ。でも、探索者を兼業してるバンドは珍しいからって注目してもらえるんだもの。お義理でも何でも、ステージで歌わせてもらえるんじゃないかって思っても、いいじゃないの」
それでメンバー達は目を見交わし、もごもごと口の中で何か言っていた。
それを契機に、僕と幹彦はそうっと克美さんの腕から抜け出した。
「本気でやらないんならいつか死ぬぜ。
じゃあ、俺達は行くから」
「あの、ありがとうございました。それと、この事は」
「言いませんよ」
僕と幹彦がそう言うと、彼らは目に見えてほっとしたようだった。
「あなたたち、名前は」
それに僕は言う。
「ただの、しがない隠居です」
それで背を向けて、僕達は歩いて行った。
そして、離れた所で嘆息した。
「色んなやつがいるんだなあ」
「全くだぜ」
それから数日。地元を紹介するケーブルテレビのチャンネルをチビたちが見ていたが、
「こいつら、この前のやつではないのか」
とチビが言うので僕と幹彦もテレビを見た。
ジャイアントキリングが、CDの宣伝をしていた。
「ええっと曲は、『無敵な隠居』と『ヘル・ケルベロス』と『鳥と亀のバラード』だって?」
「なんじゃそりゃ。もしかして、俺たちのことか。
でもまあ、仲良くバンドを続けているんだな」
僕たちは
「売れそうにないタイトルだけど、どんな曲なんだろうな」
などとわいわいと言っていた。
気にはなっていないよ。まあ、ちょっとだけ、かな。
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