探索者の光と影
異世界へ行って皆で魔の森へ行ったり、人気の観光地へ行ってみたりした。
そして日本でも、ダンジョンへ行ったり、色んな武器や作り置き料理を作ったりしていた。
雅彦さん達は探索者免許を取る事にしたらしく、教習所に通っているが、剣道の師範ばかりのチームとして既に目立っている。
そんな中、いつも通り港区ダンジョンから出てロビーの方へ行くと、ザワザワと探索者たちが集まって話をしていた。
「何かあったんですか」
幹彦が近くの探索者に話しかける。
「食い詰めたやつが、無銭飲食して逃げようとしたんだってさ」
「身体強化で逃げ切れると思ったらしいけど、店員も身体強化を持ってたからあえなく御用」
「バカだよなあ」
そう、教えてくれた彼らは言った。
ダンジョンが一般人に公開され、探索者になる人が増えた。1期生あたりは様子を見る人も多かったが、3期生あたりから免許の取得を希望する人が一気に増え、探索者は瞬く間に増えたと聞く。
しかし、全員が稼げるわけではないし、危険が伴う。それもすべては自己責任だ。
それで、思うような収入が得られなくて生活に困窮する人や、安定した仕事に戻ろうとしても思うような職種に就けなかったり、新入社員として安い給料しかもらえなくて結局困ったりするようなケースがあるらしい。
それで少ない人数ではあるが、アパートやホテルに泊まるための所持金もないからと、協会内に宿泊するような探索者もいるらしい。
中には企業に雇われて、或いは元々その企業の社員が探索者となって、月給制で薬草や特定の品物を集めるという事も最近では始まっているが、そこそこの腕が無ければ雇ってはもらえないし、場合によってはきついノルマがあるとも聞く。
何事も、いい事ばかりではない。
僕達は気持ちを切り替えて、カウンターへと歩き出した。幸い列は短く、順番がすぐに来て、魔石やドロップ品をカウンターの上に出す。
その時、それまでとは別のざわめきが巻き起こった。
何事かと皆の視線の先を見れば、あるチームが歩いて来るところだった。若い男四人と女一人のチームで、パアッと華のあるチームだ。
「誰かな。有名人かな」
呟くと、カウンターの職員が聞き留めて教えてくれた。
「あれは『ジャイアントキリング』っていうチームですよ。元アマチュアロックバンドを組んでいたらしいんですが探索者になりまして。特にダブルボーカルの女性の方、皆川克美さんは、美しすぎる探索者という事でSNSで有名になっているんですよ」
言われて、改めて僕達は彼らを見た。
確かに、元ロックバンドと言われればそんな感じもする雰囲気だ。カウンターに出したものからして、狩り場は六階あたりだろうか。
それにしても、美しすぎる、か。
「まあ、美人な方かもしれねえけど、美しすぎるってほどか? 気はきつそうだな」
幹彦が呟いて、チビは吹き出して下を向き、僕は咳払いで誤魔化して、
「まあ、少しきれいなら、『美しすぎるナニナニ』とか言うから。
探索者にしてはって意味だとしたら、探索者に美人がいないみたいで女性探索者に失礼だよな」
と言うと、カウンターの職員はにっこりと笑った。
「ありがとうございます」
ん? 職員も探索者免許を持つ人は多いのかな。まあいいか。
ジャイアントキリングのファンらしき団体が待ち構えており、悲鳴と歓声で彼らを迎え、タオルなどを差し出す。それを彼らは澄ました顔で当然という風に受け取り、動くたび、視線を向けるたびに悲鳴が上がる。まるで人気芸能人だ。
その横を、「邪魔だ」と言わんばかりの顔付きで睨みながら探索者グループが背を丸めて通るが、ファンたちからも「邪魔だ」という目で睨まれていた。
やりきれないようなものを感じて、僕達はそれから目を離してカウンターの方へ向き直った。
現実は、大抵優しく無いものである。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




