難敵攻略
ダンジョンへ行くと、ほかの探索者たちの話題は、ほぼ間違いなくホノオドリだった。
チャレンジしようという探索者は世界中にいるが、政府の方がストップをかけているそうだ。いくら自己責任とは言っても、十中八九重症か死亡というところに、「さあどうぞ」というわけにもいかないのだろう。
今は国主導で、耐熱素材の服や防具を身にまとった軍隊が挑む計画を立てているという話だ。
「うまく行くかな」
「行かないとまずいけどなあ。ホノオドリのせいで攻略が進まずに氾濫とか起こったら、そいつも含めたヤバい奴が出て来るんだろうからな」
「辺り一面火の海になるよなあ」
恐竜映画みたいだと呑気に言っているわけには行かない。
しかし続報としてホノオドリ攻略の失敗が報じられ、ニュース速報の流れるテレビを見ていた僕達に電話がかかって来た。
「是非、相談に乗ってもらいたい」
政府からだった。
非公式に各国の政府や探索者協会、ダンジョン管理庁などに協力要請があったらしく、各国のトップ探検者によるチャレンジを求めているという。
まずは軍による再突入の結果を知らされるが、防火服、耐熱素材よりもホノオドリの威力が高く、スペースシャトルの外壁やロケットのエンジンに使われる素材でも相当分厚くしないと人への影響が出るらしい。しかしそれでは、運ぶだけでも重くて大変で、実用的ではない。
そして相変わらず、結界を張るのも魔術で攻撃するのもできず、身体強化もポーションも自滅でしかなく、物理攻撃したくても近づけなかったという。
「それでも、現在ナンバーワンを自認しているアメリカのチームと軍の混成チーム、中国の軍がチャレンジすると名乗りをあげている。この後ロシアも出して来ると見ている。日本も出すしかないのだが……」
重々しく総理が言う。
まさかこの隠居見習いに行けとか言わないだろうな。そう考えていたが、安心した。
「あれはどういう現象か、予想がつくかね」
ダンジョン庁大臣が訊く。
「魔素に干渉したり術式に干渉すれば相手の魔術を不発にできますし、ポーションや身体強化で内側から燃えるのは、発動の瞬間に術式の書き換えをしているんじゃないかと思いますが。まあなにぶん、見ていないのでただの想像ですが」
「そうか。じゃあ、行って、見て来てもらえないかな」
安心するのはまだ早かったと、続く言葉に愕然とした。
「え、いや、僕がですか?」
「周川君とチビ君と揃って、正式に日本からの救援派遣団として現地へ送ろう」
「団って、ほかにも?」
驚きながら訊くと、偉い人達は笑顔で話し出した。
「自衛隊と、食料や耐火素材などもね」
「自衛隊は、医療班は当然ですが、突入に際しなるべく近くまで露払いするための人員と、食事などの供給もします」
これは間違いない。僕達が来る前にどっちみち送り込む事で話が出来上がっていたようだ。
「いや、あれと向かい合ったら、ちょっとやそっとの防御では意味もなく、死にますよ」
「一切の魔術を使わずに耐えられるほどの盾を持って行ったとしたら、動けなくていい的にしかならんだろうな」
チビがボソッと言った。
幹彦は何やら考えていたが、こちらを見る。
不吉な予感しかしない。
「史緒」
「待て、幹彦。しがない隠居に何を言うつもりだ」
すると幹彦は困ったように眉を下げた。
「じゃあ、俺だけ──」
「待て、待て待て待て」
僕は掌を向けて遮ると、考え、はあっと大きな溜め息を吐いた。
「わかった。わかってるよ。幹彦だけでは無理だし、僕だけでも無理だ。でも、僕と幹彦とチビだったら、可能性はある。わかってるけど、絶対じゃないんだぞ」
幹彦はふふんと笑う。
「フミオ。あれが外に出たら、卵を産んで増やすだろう。そうなると、安全な隠居生活は難しいかもな」
チビまで言う。
ああ、降参だ。
「わかりました。行きますよ。行ってあいつを焼き鳥にでもしてやりますよ。
あ。焼き鳥にはもうなってるのか」
こうして僕達は、派遣される事に決まった。
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