求む、強敵
相変わらず、不気味な植物が生えているし、不気味な鳴き声も聞こえる。
「この辺のやつだと、手こずることはないな」
魔の森へ足を踏み入れ、奥へ向かって進んでいた。
当然、戦うのは幹彦だ。
手早く解体の魔術を使ってバッグにしまい込み、幹彦の様子を見る。
「疲れてないか?」
「大丈夫だぜ」
「じゃあ、もう少し奥に進むか」
「おう!」
それで更に奥へと進んだ。
サラディードを使いはするが、幹彦は刀身に魔力をまとわせたりすることはせず、ただの剣技と身体強化のみで戦っていた。
「もう少し先へ行ったくらいで今日はおしまいかな」
チビがそう言いながら耳をピクピクとさせた。
それと同時くらいに、幹彦も耳を澄ますようにして辺りを見回した。
僕は残念ながら何の違和感も捉えられなかった。
しかし幹彦が体を向けた方向から、新たな魔物が姿を現した。チンパンジーに似た魔物で腕が8本あり、剣技のみで相手をするとなればあの腕が厄介なのは想像に難くない。
僕とチビがやや離れて見ている先で、幹彦とチンパンジーは向かい合い、チンパンジーが雄叫びを上げることで戦いの始まりとなった。
幹彦は素早く接近してまずは足の関節を狙った。
が、8本ある手でチンパンジーはそれをガードする。
そして別の手が幹彦を掴もうと近づいていく。
見ている僕はヒヤリとしたが、幹彦はちゃんと見えていたらしい。スイとそれをかわし、すり抜けるようにしてチンパンジーの背後に移動すると、ふわりと舞うように刀を振った。
「グギャアア!」
チンパンジーは片足の膝裏を裂かれ、片足をついた。
そうなると自由に体の向きを変えられず、8本ある腕も背後の幹彦には届かない。
幹彦は比較的簡単にチンパンジーの首を落とすことに成功した。
「お疲れ様。いやあ、流石だなあ」
「ふむ。悪くないぞ」
チビが言って幹彦も少し安堵したように笑いかけたとき、ズズッと何かを引きずるような音がした。
「新手か」
幹彦はサラディードを握り直し、音の方へと体を向けた。
「うわ……」
それを見て、思わず顔をしかめた。
大蛇の下半身に類人猿のような上半身で、腕が4本あった。その腕は、2本が石を持ち、1本は引き抜いたかのように見える大木を棍棒として構えている。
「チビ、あれは?」
「うむ。棍棒で殴ってくるし、石を投げつけてくるし、ヘビの胴体で締め付けてくるし、尾で薙ぎ払われる」
こそっとチビに訊けば、チビもこそっと答えた。
これもまた厄介そうだが、幹彦の無事を祈るばかりだ。
幹彦はそのキメラのようなものを睨み据えていたが、不意に軽やかに飛び出した。
接近して斬ろうとする。が、尾が振られてそれを回避して距離を置く事になれば、投石が襲う。
「うわっ!」
思わず声を上げるほどに、コントロールもいい。こいつは魔の森野球団のピッチャーかと言いたくなるほどだ。
それを幹彦は避けてはいるが、攻撃に転じることができないでいる。焦った顔はしていないが、幹彦らしい動きは封じられている。
逃げているうちに、幹彦は池を背にした位置へと追い込まれてしまった。しかもキメラは、幹彦の左右に大岩を投げて、幹彦の動きを封じ込める。
「あいつ意外と頭がいいな、くそっ」
見ているだけというのは、意外とストレスになるものだと知った。
キメラは岩の間に挟まれて逃げ場のない幹彦に接近し、棍棒を振り上げた。
それを幹彦はくぐり抜けるようにしてすれ違いながら、インビジブルで姿を消す。
それに一瞬だけキメラは驚いたように動きを止めたが、ヘビ特有の体温を察知するという方法でか背後を振り向いて何もない空間を尾で薙ぎ払い、体の向きを完全に変えて、そちらへ
「キイイイ!」
と吠えた。
その先で、幹彦が姿を現す。
無事な姿にほっとした。うまく追い込まれた位置からは逃げ出したが、ここから第二ラウンド開始だ。
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