ライバル、再び
北海道ダンジョンを切り上げて家へ帰り、近くのいつもの港区ダンジョンへ行く。
結局あの後クローバーは協会の北海道支部から二週間の業務停止と罰金となり、僕たちはそれなりの慰謝料を受け取り、訂正の動画を上げたことにより和解とした。
それで仕切り直して、この前の続きから潜り始めたのだが、単純に力が強いなどという魔物から、魔術を使ったり集団で襲って来たりする魔物が中心になっていた。段々と、魔物が強くなって来たらしい。
火を吹いて飛ぶカメが残した簡易鑑定ができるべっこうの眼鏡を拾い上げ、幹彦が試して遊んでいると、斎賀たち天空の幹部メンバーが通りかかった。
アンデッドダンジョンをやめてこちらへ移って来たらしい。
と、大きなトリが現れる。毒を吐き、それがかかると体が石化するという魔物だ。
「毒に注意しろよ!」
斎賀が言いながら剣を抜き、構える。仲間たちもトリを囲むようにして剣を構えた。それを、僕と幹彦とチビは見物し始めた。
トリは羽をバサバサとさせ、逞しい足をドンドンと踏み鳴らし、
「ケェーッ!」
と鳴いて液体をメンバーの一人に向かって吐き出した。
同時に斎賀が飛び出し、トリに背後から一太刀浴びせる。
トリは羽をばたつかせ、鋭い爪の生えた足で蹴ろうとするが、斎賀は位置を変え、後ろに回って剣をないだ。
それで右足が切れてトリはその場にうずくまり、恨みを込めた目で斎賀を探す。怒りのあまり斎賀にトリの注意が集中したのを好機としてほかのメンバーが一斉に攻撃をかけ、それにトリがイライラと鳴きながら目を向けた時に斎賀が思い切り斬り込み、それでトリは魔石と刀を残して消えた。
「トリってバカなのか?集中力がないのか?」
喜び合う斎賀たちを見ながら幹彦が言う。
「鳥頭って言うくらいだからな。次の攻撃を受けたら前の攻撃は忘れるんじゃないか?」
言うと、幹彦はなるほどと頷き、チビは
「特にこいつらはバカだからな」
としみじみと言った。
と、斎賀たちがドロップ品を囲んで興奮している。刀で、斎賀がそれをさやから抜き、皆でうっとりと眺めていた。
「斎賀さんが使って下さい」
「いや、でも」
「斎賀さんは刀の方が本来の力も出るでしょう?ぜひ」
メンバーたちの勧めに斎賀も満更でもない顔をしている。
僕はその刀を視てみた。斬ったら毒が付与される刀らしく、壊れにくい、なかなかいいものらしい。
「ふうん」
幹彦を見ると、幹彦もべっこうの鑑定眼鏡で視ていた。
「サラディードには負けるけど、悪くなさそうなものだな」
どこか満足そうに言って、眼鏡を外す。
「行くか」
歩き出す前、斎賀の目がこちらを捉えたような気がした。
数日後、僕達はダンジョンでばったりと天空に会った。斎賀の腰には、この前ドロップした刀が下げられている。
「周川」
斎賀たちの睨むような、それでもどこか余裕を感じるような目付きに、幹彦は呑気そうに応えた。
「よお」
僕は眼中に入っていないようなので、そばにはいたが黙っていた。
「得物を変えた」
斎賀は言って、腰の刀に手をやった。そして、幹彦を見る。
「どちらも同じ刀。これで条件は一緒だ。
勝負を申し込む。お互いに魔術なし、加勢なしの、剣技のみでの勝負だ。どっちが上か、はっきりさせよう」
暑苦しくも面倒臭い事を言うやつだ。向こうの流派はそういう人間ばかりなのか。
と思ったら、幹彦も斎賀達と同じような面白そうな顔付きをしていたので、愕然とした。
「え。やるの?」
幹彦はううんと言って頭を掻きながら、
「どっちが上とかはともかく、剣技には興味があるなあ」
と言う。
剣術好きという奴らは、皆こうなのだろうか。
僕とチビが呆然としている間に話はまとまり、人の少ない階でやり合う事に決まっていた。
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