雪原の女王
僕達は無言で睨み合う。
その間で鍋がグツグツと煮え、いい匂いをさせていた。
締まりがないな。しまっておいた方がよかったかな。そう思った時、幹彦が表情を引き締めて立ち上がり、チビも耳をピクリとさせた。
「史緒、大物が来たらしいぞ」
言いながらかまくらの外へと出て行くので、僕も続いて外に出て行った。
「なによ!やる気!?」
剣の女の子がそう言って剣を抜こうとするのに、幹彦はチラリと目を向けただけで視線を外して横を通り過ぎ、チビは関心もなさそうにそれに続く。僕はどさくさに紛れて、かまくらの中身を急いで空間収納庫にしまう。
すると後方の階段の方から、男達が4人、来るのが見えた。
「あ、お前ら!クローバーに何かしてるんじゃないだろうな!?」
こちらを指さして喚くのに、杖の女の子が慌てたように
「違います!落ち着いて下さい!」
と手を振り、大鎌の女の子はぼうっとそのまま立ち、剣の女の子は軽く舌打ちをし、短剣の女の子は
「おおい!無事に来られたんだな!」
と手を振る。
クローバーのファンらしかった。変形した鉄棒と槌を持っている。
彼らはクローバーのメンバーに話しかけた。
「大丈夫?何かされてない?」
「僕達が守るからね!」
「動物を使い捨てにする卑怯者なんかに負けないからな!」
彼らはそう言って武器を構えるが、寒さで震えている。
それにクローバーのメンバーは、杖の女の子が愛想笑いを浮かべ、ほかは無視している。
「あはは、どうも。その、さっきは武器をお借りして、ありがとうございました」
「いいいえ!ビビアンちゃんに使ってもらえて、こちらこそ、もう!」
「ぼぼぼくも、ヨッシーちゃんに握ってもらえて光栄です!」
それに、短剣の女の子と剣の女の子が義理とわかる笑顔を浮べる。
ふうん。彼らの武器を借りて、殴ってボス部屋を通過して来たのか。
そう考えている間にも、幹彦とチビは前に立ち、前方を睨んでいた。
「史緒にもそろそろ見えるぜ。見るからに雪山ってやつだぜ」
それで皆がそちらに目を向ける。
僕は目を凝らしながら言った。
「見るからに雪山ねえ。ビッグフットとかかな。とにかく、火に弱そうかな」
「たぶんな」
言っている間にも吹雪は強まり、冷気はますます強まり、クローバーのメンバーとクローバーのファンは寒そうに震え出す。
その時、やっと見えた。
「ああ、ハズレたなあ。雪女?」
予想と違った。
「和テイストじゃねえけどな」
幹彦が言う。確かにその雪女はドレス姿をしており、氷か雪でできた女性像という感じだった。
「まあ、熱には弱そうだな。氷の剣を持ってるし、あと、氷とか飛ばしても来そうだね」
言った時、クローバーの杖の女の子以外が前に出て宣言した。
「後ろに下がってなさい!犬を連れて!」
「こいつは私達が倒す!」
短剣と剣の女の子が言い、大鎌の女の子は無言で頷く。そして杖の女の子は仲間に向かってガードの魔術をかけた。
そこに雪女が、雪の弾を投げつけて来た。
一斉に避けるが、杖の女の子が逃げ遅れて弾がかすめた。ガードのおかげで大したケガはなかったようだが、
「キャッ!」
と悲鳴を上げてひっくり返った。
助けた方がいいのか迷うが、まあ、横取りと騒がれるか余計な事をするなと言われるのがオチだ。幹彦を見ると、幹彦も首を小さく横に振っていた。
「がんばれー!」
「いいよー!」
ファンの男達が声援を送る中、クローバーのメンバーは攻撃に出る。
一応身体強化はできるらしく、接近は素早い。それでファンの男達は、彼女らに代わってドヤ顔で説明した。
「身体強化だぜ。ヨッシーちゃんもビビアンちゃんもイズミちゃんもできるんだぜ。凄いだろ」
「マミーちゃんは魔術師なんだぞ。ざまあみろ」
僕と幹彦は返事に迷ったが、
「凄いですね」
「凄い凄い」
と棒読みで言っておいた。
その間に彼女達は雪女に接近して行ったが、雪女が吹雪を吹き荒れさせると軽々と短剣の女の子は吹っ飛び、剣の女の子が斬りかかったが雪女の持つ氷の剣で防がれる。しかし大鎌の女の子が無言で斬りかかると、上手く連携して剣が肩に入った。
「固い!」
剣は雪女の体を傷つける事は出来ず、雪女はニヤリと勝利を確信したように笑った。
「て、撤退よ!」
剣の女の子が言うのに、短剣の女の子は
「まだまだ!」
と叫んで突撃して行く。
誰もが、危ないと思った事だろう。そしてその予測通りに、雪女は吹雪を吹き荒れさせ、剣を短剣の女の子の足に当てた。
「キャッ!」
女の子は派手に転がり、それを大鎌の女の子は引きずるようにして後退させ、剣の女の子が牽制するように立つ。
「えっと、撤退するなら、こっちがやってもいいか?」
幹彦がのんびりと言うと剣の女の子がキッと睨みつけた。
「犬を囮に逃げる気ね!?恥ずかしくないの!?」
それに幹彦は嘆息し、僕は苦笑した。
「何でそう、人の言う事を聞かないのか。はあ」
「幹彦、そういう人はいるんだよ」
「ワン」
「とにかく。いいな?」
剣の女の子が悔しそうに唇を噛むが、大鎌の女の子が初めて口を開いた。
「私達には無理。撤退だけでも難しい」
杖の女の子は、必死に短剣の女の子に回復魔術をかけている。
ファンの男達は青い顔で震え、半分逃げ腰だった。
「無理だよ、ビビアンちゃん」
「ここは、しんがりを任せて撤退しないと!」
「そうそう!」
それで彼女は、渋々認めた。
「わかったわ」
それを聞いて、僕と幹彦とチビは前へ出た。
「さあて、女王様。相手は俺達にチェンジだぜ」
雪女はニヤリと嗤った。
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