表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【マンガボックス・コミカライズ連載スタート(7/5)】戦犯勇者の弟妹  作者: アニッキーブラッザー
第三章(三人称)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/78

アフター短編

 復讐心。

 それが、エルセが故郷を飛び出し、最愛の兄と義姉の死によって抱いた感情だった。

 愛する兄を陥れて命を落とすきっかけを作り、様々な裏工作をしてその名声を穢した。

 最後まで自分たちを守ろうとした義姉も無残に殺されてしまった。

 それに加担した故郷の王国も、全ての元凶でもある帝国も断じて許さない。

 全てを敵に回してでも復讐を果たす。

 だが、それだけではない。

 まず復讐より優先すべきことが一つだけあった。


「ん~……エルお兄ちゃん……」


 いま、自分の腕の中で完全に無防備で無垢な様子でスヤスヤと眠る最愛の妹であるジェニ。

 この妹を守るためなら何だってする。命すら懸ける。

 それもまた自分自身と亡き兄、そして義姉への誓いでもあった。

 妹を守る。

 そして、復讐を果たす。

 エルセにとってはそれだけあれば良かった……はずだった。


「あら~、ジェニがだいぶ遊び疲れてお眠ですね~……エルセにギュッと……でも、珍しいですね~、ジェニがここまで完全に甘えんぼになるの……」


 でも、今はそれだけではない。

 そのことをエルセも十分に分かっていた。

 何故なら、もうエルセとジェニは互いに二人ぼっちになってしまったと思った世界に新たに家族が加わってくれたからだ。


「クローナ……」

「ジェニも最近は私にとっても心を開いてくれてハグもさせてくれますが、ここまで大きな赤ちゃんみたいにまだ甘えてもらえてません……羨ましいです」


 その存在こそが魔界の姫であるクローナの存在だった。


「ああ、昔からたまにこういう時があるんだ。兄さんが戦争でずっと家にいなかったとき……ふと寂しくなってこうして完全甘え状態になるのが……」

「あう~、かわいいのですう……私にもとことん甘えて欲しいのです。なぜなら、私はお姉ちゃんですから! ジェニは私の妹なのですから!」


 エルセの胸の中で眠るジェニに緩んだ笑みを浮かべてデレデレするクローナ。

 ジェニを心底猫かわいがりし、ジェニは自分の妹だと公言するほど愛している。

 エルセにもその想いは十分伝わっており、そこまでジェニを愛してくれるクローナの想いを嬉しく思う。

 さらに……


「でも、困ったのです……エルセがジェニを独占して私はジェニを可愛がれず……ジェニもまたエルセを独占していますので……私はエルセともイチャイチャすることができませんね~♡」

「…………ク、クローナ……」


 純真無垢な花ような微笑みを見せていたかと思えば、エルセの耳元で息を吹きかけながら甘いネコナデ声で小悪魔のような笑みを浮かべるクローナ。

 

「……ジェニの邪魔をしたくありませんし……でも、エルセともイチャイチャできませんし……ん~……どうします?」

「い、いや、どうするって……」

「あら? エルセは私とイチャイチャできなくても我慢できるのですか~?」


 そう、クローナはエルセのことも愛している。それは家族愛などではなく、男女の仲として。

 それもまたエルセも十分に伝わっているため、もはやクローナはエルセとジェニの人生には欠かすことができないほどになってしまっていた。

 そして、そんなクローナと過ごす日々の楽しさ、甘い日々、そして幸せを実感していた。

 だが……


「も、もぉ、クローナはすぐにそういうこと……その、あ、あまり、そういうのやりすぎるとさ、ジェニに見つかったりしたら教育に悪いし……そ、その、最近、ただでさえ、その……なんというか……『そういうこと』をたくさんしてて……」

「む!? 別にいいではないですか! 私とエルセはラブラブなのです! エルセだってあんなに気持ちよさそうに―――」

「しーっ、お、起きるって、ジェニが起きちゃうって!」

「う~……だって、エルセが……『そういうこと』をたくさんはダメなのですか? 私はいつでも……うう~……」

「そ、そうだけど! 俺も何だかんだでいつも結局……だ、だけど、この間の戦いで俺が大けがしてあまり動けなくなったときから……その、街に出るとき以外は家でソレばかりは、さ、さすがにそろそろまずいんじゃないかと……」

「今更ではないですか」

「そ、そうなんだけどさ……」


 エルセがゴニョゴニョしていても、クローナは構わず積極的にエルセに詰め寄る。いつもなら、その積極的なクローナに流されて、そのまま……なのだが、今日はクローナもジェニが傍にいるからか、無理やりエルセに実力行使に来ることはなかった。

 それゆえか、いつもは何か言うたびにキスでふさがれてしまっていた口も今日ばかりはそこまでに至らなかったため、エルセも最近の思いを口にする。


「帝国……なんか、皇帝が死んだとか……王子がクーデターとか……そこら辺のこと、どうなってるの?」

「……………エルセ?」


 それは、エルセが果たさなければならないケジメのこと。兄を陥れて死の原因を作った黒幕であり、復讐すべき対象の存在。

 だが、その存在が今はよくわからない事態になっている。

 その真面目な話に、クローナも流石にいつものようにはせず、重い口を開く。



「情報収集中ではありますが……先日の地上での大規模な我ら魔王軍の圧勝による人類軍の多くの死者、各国の有力な将校の死、あなたたちの兄であるテラの死の真相……ボーギャックたち戦死による八勇将半壊……それらの全ての憤りに対して起こった帝国での大規模な民衆のクーデター……それを治めるため、さらにそれら全てを認めてその責任を取るため、帝国のラストノ王子が実の父である皇帝の首を刎ねることで治めたとのことです」


「ラストノ王子……兄さんから少し聞いたことはあるけど……」


「本来であれば信用失墜に加えて八勇将半壊という全人類にとって致命的な事態になりながらも、ラストノ王子が率先して動き、これまでの人類連合から新しく生まれ変わろうとしているとのことで、この事態は六煉獄将も予想外だったようで、今は静観しているようです。無理に今の混乱を突こうとして、逆にその事態に対して人類が存亡の危機に対処するために却って結束を強めてしまうのではないかという恐れもあり」


「そっか…………」



 その話を聞きながら、エルセは何とも言えない表情でジェニの頭を撫でながら天井を見上げた。


「帝国にも復讐してやる……そうなった原因の八勇将と皇帝をぶちのめしてやる……そう思ってた。だけど……」


 エルセはふと思う。既に八勇将最強と言われた帝国のボーギャックはエルセ自身の手で討ち取った。

 そして、その元凶でもあった皇帝は既に死んでしまった。

 その結果、エルセが復讐しようとした帝国は今では既に新しく生まれ変わろうとしているところである。

 なら、それは果たしてエルセにとって復讐の対象と言えるのか?


「俺の復讐する相手って……もういなくなってるのかな……」


 もはや復讐というものは果たせてしまっているのではないかと思った瞬間、エルセはどこか虚しさを感じ、切ない表情を浮かべた。

 そして、エルセの言葉にクローナもどこか胸が締め付けられそうな表情で唇を嚙み締めた。


「……だから……もう、私たちに用はない……地上も変わったみたいだから、地上へ帰ろう……そんなこと言ったら泣きますよ?」

「っ!? クローナ……い、言うわけないだろ、そんなこと!」

「……だって……」


 拗ねたようにプイっと顔を背けるクローナ。

 実はクローナ自身もそれには気づいていた。エルセがボーギャックを倒し、八勇将半壊に加えて帝国の皇帝の崩御。

 それは、エルセの生きる目的の一つになろうとしていた復讐を果たしてしまったということを。

 それを気づかせないために、クローナもエルセにあえてずっと傍にいて自分の存在と愛でエルセを夢中にさせようとしていたこともあった。

 エルセとジェニといつまでも一緒に居たかったから。


「だけど俺……大魔王にさ……その……初めて謁見したとき言ってたから」


 そして何よりも、エルセもまた公言していたからだ。



――テラの弟エルセよ……一つ問おう。今の貴様の望みはなんだ?


――俺はジェニを守り、その上で……帝国のクソ野郎どもをぶっ潰すことだ!



 と。



「でも、もう今の帝国は俺の復讐するような帝国じゃなかったとしたら……いや、もちろん地上に帰る気はないし、クローナともこれからも一緒にいたいさ。だけど、俺は今後どういう理由で魔王軍にいさせてもらって戦えばと……」


「だったら、ジェニと私を守るために戦うと宣言すればよいのです! 戦争はまだ続くのです! 私も戦場に出ますし、人類からも変わらず狙われます! そんな私を守るためにも、これからもずっとそばにいてくださればいいのです! その報酬として、私がエルセとジェニを守って一生幸せにしますから!」


「あ、いや、それはもちろんだけど……」


「それともちろん――」


 

 すると、ウジウジと悩んでいるエルセに対してクローナはもはや寝ているジェニに構わず怒涛に詰め、声を上げ、そして最後はニッコリと微笑み、自身のお腹を擦りながら……


「いつかココから生まれてくる……命を守るためにも、です♡」

「ッッッッ…………あ、え/////」


 その瞬間、エルセの表情は一気に真っ赤になる。

 もちろん『そういうこと』をしているので、そうなることは当然ありえて、むしろ必然なわけなのだが、そこでクローナに堂々と言われたことで、エルセもそのことで急に恥ずかしくなった。

 そのエルセの反応にクローナも内心でほくそえみ、再びエルセにすり寄る。


「残念ながらまだ兆候はないのですが~……んふふふふふ、やっぱり今日も励みたいですね~♡」

「あ、いや、あ、あの、クローナ、そ、そんな、俺は真面目に話してたのに……」

「あら、私は大まじめですよ?」


 クローナは分かっていた。

 もはや今となってはエルセの疑問に対する明確な正解など出せるわけがないのだと。考えても深みに入りドツボにはまるだけで、むしろ今のエルセにはマイナスでしかないのだと。


「んん~……うるさい~……クロお姉ちゃん……エルお兄ちゃん……」

「あら、ジェニ、起きてしまったのですか? ごめんなさい……でも、ジェニもエルセに言ってください! 早く私とエルセの赤ちゃんが見たいって……」

「……赤ちゃん? ……………見たい!」

「クローナ! ジェニも何を……」


 そして、クローナは分かっていた。




 だが、今は言わないことにしていた。





 それは、エルセが既に復讐を果たしてしまったかもしれないということよりも……






 今度は、エルセ自身が復讐される立場になってしまっていることを。





 何かを守るため。復讐のため。そういった総和が結局のところいつまでも終わらない戦争の原因になっているのだということを。


久々に本作の短編を書いてみました。何で?

コミカライズ化決定して、今日(7/5)から配信開始だからです!!!!


昔ならコミカライズ化決定の段階で告知していましたが、昨今は何が起こるか分からないこともあり、ギリギリまで告知できませんでしたが、スッキリしました。


レーベルはマンガボックスさんで、漫画家は盛田賢司 先生です。

是非ポチポチっとアクセスして読んでいただけたらと思います。


https://www.mangabox.me/reader/475488/episodes/


ちなみに、マンガボックスさんのアプリからなら第5話まで一気にあるとのこと。

第4話……ごほんごほん……第4話……ヒロインが、ヒロインが……


クローナやジェニのイラストを見たいと思ったそこのあなた、見てこいや! よろしく! 

そしてアクセスしまくってPV稼ぎまくってくれい! 盛り上がれ~盛り上がれ~! わっしょい!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白いと思っていただけたら輝く星を、作者にブスッとぶち込んでください!!
とても大きな励みとなります!!
どうぞよろしくお願いいたします

★★新作です!!!! こっちの作品『冗談で口説いたら攫われた大魔王~知らなかった? 女勇者たちからは逃げられないよ』も応援してくれたらうれしいです★★※クリックでページに直接飛べます

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ