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【マンガボックス・コミカライズ連載スタート(7/5)】戦犯勇者の弟妹  作者: アニッキーブラッザー
第三章(三人称)

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第77話 受け入れられた

「クソガキ……テメエ、どういうことだゴラァ」


 今日も約束を果たされようとしていた。

 昨日のボーギャックとの一戦で、全身の神経や筋肉から骨に至るまでズタズタになり、本来なら絶対安静で自力で歩くことも困難なエルセ。

 しかし、それでも「殴らせてやる」という約束を果たすために、屋敷から降りてきた。

 いつもの時間帯に現れたエルセ。

 魔界勇者と言われたエルセが、自分の容態を気にせず筋を通して約束を果たそうとするその姿に……


「ふざけてんのか、テメエッ! マジでぶっ飛ばすぞゴラァ!」


 ホブゴブリンのヤオジは怒りが収まらない。


「ああ、ふざけやがって! やっちまえ、おやっさん!」

「俺も腹が立って仕方がねえ、ぶっ殺してやる!」

「信じられないわ、あの人間!」

「許せない……こんなの許されることではないわ!」


 そして、いつものように見物人も集まり、皆が一旦仕事の手を止めるのだが、その時も周囲からエルセに対する怒号が飛ぶ。


「マイト、どうする? 彼を助けに行った方がいいかなぁ?」

「……も、求められたなら助けに入るべきかもしれんが……」

「だよね。でも、ぷっ、くくくく」

「笑うな。子供たちの恩人相手に失礼であろう」


 その様子を街に降りていたシンユーとマイトも目撃していた。

 恩人であるエルセのピンチ。

 しかし、シンユーは笑いを堪え、マイトはどこか呆れたように頭に手を当てている。



「いや、ほんと、す、すまん、だから、お、俺も、その……俺もほんと、どうかと思ったんだが、どうしても、いや、ほんとにこればっかりはすまねえ! でも、ふざけてるわけじゃねーんだ!」



 エルセもまた、その怒号を受けて泣きそうに、そして申し訳なさそうにする。

 それは何故か?



「やれやれ……仕方ないじゃないか。婿くんは自力で動けないし、クローナの力では運べない……僕が抱っこして連れて来るしかないじゃないか」


「「「「「なんで、ガウル様に抱っこされてんだ!!??」」」」」



 と、苦笑するガウル。

 申し訳なさそうに、そして涙、恥ずかしくて顔を真っ赤にするエルセは……ガウルにお姫様抱っこされて降りてきたのだった。


「むぅ……ガウルお姉様、そろそろエルセを離して欲しいのです」

「あ~……なーんか、平和なーのじゃ」


 付き添いで来たクローナはむくれ、トワイライトはバカバカしそうに溜息を吐く。

 本来、六煉獄将が二人、ましてや姫三姉妹が勢ぞろいで街に降りている光景は滅多にないことであり、民たちは本来畏まるもの。

 だが、今はその六煉獄将にして姫でもあり、女性からも熱烈なファンも多いガウルにお姫様抱っこされるという女性たちの夢をエルセが体現してしまっていることで、魔王都の若い女性たちからも非難の嵐。

 そして、男は男で「クローナ姫と既にイイ関係なのに、ガウル様まで?」というエルセの状況に怒り心頭で怒号。

 

「お、俺もぉ、最初は嫌だったんだァ!」


 民たちの怒りはもっともであり、エルセも分かっている。そもそもエルセもこんなみっともないことは嫌だったのだが、どうしても抗うことができずにこのような姿で街に降りるしかなかったのだった。


「エルお兄ちゃん、女の子みたい……もぐもぐ……ん~、焼きバード美味しい」

「ぬおおお、親分! 拙者がその場に居れば、おぶって降りれたというのに、くう、不覚! もぐもぐ……ぬぅ、このツクーネとやらは絶品」

「……嫌がる婿殿も萌えますね……もぐもぐ、このボンヒップというのも」


 ネオ魔王軍たちと一緒にヤオジの店で食事していたジェニたち。

 串焼きを頬張りながら、お姫様抱っこされているエルセを眺めていた。



「つーか、ジェニ。お前、なんでオッサンのとこに?」


「ごはんもらった。これ、焼きバードっていうの……美味しいよ?」


「なんでそんなことに?!」



 そして、エルセはヤオジの店から出て来てムシャムシャ串焼きを食べてるジェニを見て驚いた。

 なぜそんなことになってるのかと。


「まぁ、テメエの妹には仕事をちょいと手伝ってもらったから報酬でよ……まぁ、色々と思うところがあるが……こいつに俺のわだかまりをぶつけてもしゃーねえ……そう思ってよ……」

「へぇ……」

「……だが、テメエは別だぁ! 容赦なくぶっ殺すッ!!」

「いや、だから、つか、えっと、が、ガウルさん? 降ろしてくんないっすかァ?」


 ヤオジもどこかジェニに対しては色々と心の中で整理がついて、そのことをエルセは思わず微笑みそうになる……が、それをまだガウルにお姫様抱っこされてる状態でしていても全然爽やかにならず、ヤオジ自身もまだ病み上がりだが怒りでソレを超越した。

 そしてエルセもこのままではカッコがつかないと、降ろしてもらうように言う。

 だが……


「つ~~~~ん」

「あ? あの、ガウルさん?」

「つ~~~~ん」

「え?」


 お姫様抱っこ中のガウルは、エルセの呼びかけをわざとらしくソッポ向いて無視。

 何事かとエルセが混乱すると、ガウルは……


「こらこら婿くん。さっきの僕への呼び方を忘れたのかい? ガウルさん? なんて他人行儀なんだい?」

「……は?」

「ほら、さっきみたいに……僕やトワ姉様を何て呼んでいた?」


 ニッコリと微笑むガウル。

 そしてハッとしたエルセ。

 

「え、あ、アレをココで?」

「ふふふ、さあ」


 ガウルのからかい。

 この状況でソレをやったら、また怒りを買うのでは? そう思ったエルセだが、期待に目をキラキラさせているガウルは折れる様子がない。

 だから、エルセも覚悟を決め……



「お、降ろして、ください……お、お義姉さん」


――――ッッ!!!???


「ふふっ、よくできたじゃないか。婿くん♪ いや、僕のかわいい義弟くん♪  これで少しはさっきの仕返しができたかな?」



 そう言って、ガウルは微笑みながら人差し指でエルセの鼻をツンと突いた。


「ひ、い、いやあああああああ! ガウル様が、あ、あんな、け、汚らわしい男と、近い!」

「あの野郎ぅぅうう、何勝手に魔界の王族に入ってんだ!」

「クローナ様を泣かせるなとは言ったが、結婚はまだ早ぇだろうが!」

「やろぉ、魔界勇者だからって美味しい思いをしやがってぇ!」


 そして巻き起こるまた怒号。

 ガウルも先ほどはエルセとクローナの営みを見せられて混乱したり、蚊帳の外だったり、お邪魔虫扱いされたりもしたので、少しスッキリしたようにエルセを降ろした。

 そして降ろされたのはいいものの、エルセの身体は本来ならまともに立っていられないほどの重体。

 よろけそうになる。

 だが、それでも歯を食いしばり……



「あ~~、もう、うるせえ! だから謝ってんのに、もういいよぉ! それもひっくるめて俺をムカついてんなら殴って来いよぉ!」



 と、恥ずかしさや痛みで色々ともうヤケになってそう叫んだ。


「開き直りやがったのこの野郎! だいいたい、姫様との仲だって、俺らァまだ認めたわけじゃねーんだぞ!」

「そうだぞ、小僧! クローナ様との結婚は魔界の未来を左右させる! だから、俺らァまだ認めてねーからなァ!」

「大体、まだ二人とも若いんだし、清い付き合いからだ!」

「そうだ、もし勝手に一線超えるとか無責任なことしようとしたら許さねえぞ!」

「「「そうだそうだーっ!!!!」」」

「そんな、違います! エルセは無責任ではありません! ちゃんと、お姉様たちにも『認めてくださいッ』って……きゃ♥」

「あ~、少し黙ってようか、クローナ。彼、ほんとに殺されちゃうよ」

 

 そのとき、バカバカしいと思って眺めていたトワイライトはエルセを助ける気も無く溜息。

 だが、ふと気づいた。


(ん? そう言えば、こやつら今日は一言もテラのことを……)


 そう、元々この儀式のようなものが始まったのは、魔界の民にとっては敵であり、失った家族や友人の仇でもあるテラへの、そして人間への憎しみや恨みをぶつける相手として、それをエルセが受け入れるというものだった。


「いいか、まずはテメエには色々言ってやらねーといけねえことがある! ちっとは良い子に育ってる妹を見習ってだなァ!」

「ちょ、待てぇ、俺は何も―――」

「うるせえ、まずはそこに座れぇ!」


 だが、今日もソレが行われるはずが、何だかこれまでと全く違う雰囲気だとトワイライトは気づいた。


「何だか、親子の口喧嘩を皆で楽しんでヤジってる……近所の悪ガキを皆で説教してる……そんな感じですね……」

「ぬ? シンユー」

「それに、あんなに皆して大声で怒鳴っているのに……今の重傷のエルセくんを本当に殴ろうとしていない。誰も」


 トワの側に近寄って、シンユーが笑いながら呟いた。

 そう、いつもと違う怒りの声。

 そして、アレだけ怒鳴り散らしながらも、ヤオジどころか他の民たちも誰も今のエルセを本当に本気で殴ろうとしないのである。

 いつもは防御技で攻撃を無効化しているエルセだが、今ならそんな芸当できるはずもないので、殴ってダメージを与えるのなら千載一遇のチャンスである。

 しかし、誰もがエルセに怒りながらも、今のエルセの容態を分かっているからか、本当に殴らない。

 そして、シンユーの言う通り、皆が怒鳴っているのに、どこかギスギスしていない。

 そのことを分かっているからこそ、妹のジェニもノンキに串焼きを食べている。


「テラのことは……許されたと?」

「許すとか許さないとかじゃない……たぶん、受け入れられたんですよ……彼らは。恨む対象としてではない、拒絶する相手でもない……恩があるから気遣っているわけでもない……ただ、自分たちと一緒に『この世界』に住むヒトとして……」


 受け入れられた。だからこそ、お節介のような説教だって言う。

 シンユーの解釈に、トワイライトもどこか納得できた。


「なんだか……本当にいらぬ心配だったかもしれぬ。意外とわらわも……民たちを見くびっていたかもしれんな」


 弟妹のこと。シュウサイに言われたこと。色々気になることがあり、それは理解しているつもりだったトワイライト。

 しかし今広がる目の前の光景に、何だか杞憂で終わるかもしれない。

 そんな甘くもあり、しかしそうであってほしいと願いたくなる光景を目に焼き付けていた。

 ただしそれでも……



「急報ぅぅうううううう!!!!!! 地上の大戦に関し、新たな展開が!!!!!」



 それでも……



「ガティクーン帝国の現皇帝が急死!! 同時に、地上に新たな勇者が誕生したと!!」


「「「「「……………は?」」」」」



 人類と魔族の戦争は、まだ終わっていない。


 






――第三章 完――


お世話になっております。

これにて、本作第三章は終わりとなります。

ココから先の展開は色々と考えておりますが、最近リアルが忙しすぎるのもあり、一旦ここで少し休ませて頂きます。


続はまた改めてとしますので、是非にブックマーク登録していただき、続きをお待ちいただけたらと思います。

また、ここまでで面白いと思っていただけましたら「★★★★★」にてご評価いただきたく存じます。


また、下記の作品もよろしくお願い致します!!!!!

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