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【マンガボックス・コミカライズ連載スタート(7/5)】戦犯勇者の弟妹  作者: アニッキーブラッザー
第三章(三人称)

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第63話 大恩

 クローナのような王族に及ばないまでも、その身分は魔界でもトップクラスであろう二人。

 そのシンユーとマイトがエルセに対して深々と土下座をしているのだ。

 一体なぜこんなことになっているのかとエルセがアタフタすると……


「エルセ殿。この度、魔界王都をお救い下さったことは、言葉では表しきれないほどの感謝。そして何よりも、妻と娘が救われました」


 顔を上げ、真っすぐな目でシンユーが事情を説明した。


「つ、妻? 娘?」

「はい。僕たちの家族も王都に居ます。そしてあのとき、娘は……ボーギャックの手にかかる寸前だったところを、エルセ殿とジェニ殿に助けられたと聞きました」

「うぇ? あ、え? 助けられた? 俺たちに?」

「はい。覚えてないですかね? 娘の話によると、たしかジェニ殿も今度から娘と一緒にネオ魔王軍に入るとか……」

「ッ?! あ……ああ! あの時の小っちゃい女の子……たしか、ボーギャックに服脱がされて……」

「それです! まさにその子は僕の娘です!」


 そのことを教えられ、エルセは色々と納得したように頷いた。


「ちなみに、一緒に居た男の子、ヒートはこっちのマイトの息子です」

「うえええ? そうなの? ……じゃなくて、そ、そうなんですか……」

「はい! そう……あなたたちがいなければ……もし、いなければ、本当にどうなっていたことか! 考えるだけでも恐ろしい!」


 シンユーが震えるように声を上げる。それは嘘偽りのない感情の爆発。


「まだ幼い娘が、妻が、凌辱され、殺され、王都が滅びていたら……僕はもう気が狂って死んでしまう……そして、それは僕だけではない。命を懸けて戦場へ赴く戦士たち、しかし戦場に出ている隙に守るべき故郷と家族が蹂躙されていたら……恐ろしくて仕方ない。しかし、それを救ってくれたのが……」


 もはや、種族がどうのは関係ない。

 身分も魔王軍も関係ない。

 ただ一人の『ヒト』として、そして『親』として、シンユーはどうしてもエルセとジェニに感謝の言葉を伝えずにはいられなかったのだ。


「あなたに直接感謝を伝えたい……そう思っているのは当然僕たちだけではない。けれど、流石にここに大勢で押しかけるわけにはいかないので、まずは僕たちが代表として……ね? マイト」


 ただ、感謝を伝えたかった。

 それだけのためにワザワザ足を運び、そして高位な身分でありながら、人間であるエルセとジェニに土下座した。

 そして、シンユーの隣のマイトも頷いて顔を上げた。


「エルセ殿……自分の妻は身重でした。息子のヒートもそのために『兄として自分がやらねば』という思いから、危険を顧みず先走ったことを……。ボーギャックの凶刃が寸前の所で……シンユーの娘のリロと同様に救われたと……この感謝、生涯忘れることはないでしょう」


 シンユーと違い、マイトは普段は鉄面皮……なのだが、このときはシンユー同様に感情を曝け出して感謝を述べた。

 そして、シンユーとマイトは代表してきた二人であり、本来であれば二人だけではなくもっと多くの魔族がエルセとジェニに感謝しているのである。


「い、いやぁ……なんつーか、そ、そっか……、あ、そうですか……そう言ってもらえると、こんな痛ぇけど、良かったって思う……」


 正面からの何の裏表もない感謝に、エルセも照れくさくなった。だが、それでも自分たちがボーギャックを討ち取ったことがこういう結果になったのであれば、誇らしいと思うようになった。

 八勇将三人の敗北。テラを含めれば、人類の八勇将は半分になった。

 もはや人類にとっては甚大なダメージであり、長きにわたる人類と魔族の戦の終焉を感じさせるものであり、そして人類からすればエルセとジェニはその戦犯でもある裏切り者として強く恨まれることになるかもしれない。

 しかし、もうエルセもジェニもクローナと一緒にこの世界で生きると決めたので、その世界に住む者たちに感謝されるのであれば、コレで良かったのだと思うようにした。


「まだ傷も癒えていない中で今日はありがとうございます。あまり長居をするのもご迷惑なので、今日はこれで失礼しますが、もう少し体が良くなってから、改めて御礼させて下さい」

「あ、いやいや、もう十分で……」

「あと、手ぶらも何だったので、色々とお土産をメイドの方にお渡ししました。宝物や菓子などですが、あとでご覧になってください」

「うぇええ、あ、いや、そ、そんなものまで、いや、なんか恐縮です」


 いずれにせよ、ここまで感謝されて誇らしいと同時に、少し恐縮してしまう気持ちも芽生え、エルセはもうペコペコしっぱなしであった。

 そんな中で……


「御菓子? 御菓子もあるの?」


 と、ジェニはお土産に反応した。


「あ、……うん。王都でも有名な高級スイーツ店。二人の活躍で店も無事だったから、店主からも是非と言われてね。いっぱいあるから好きに食べてね」

「おお~~~!!」


 シンユーがそう告げると、ジェニは目を輝かせて部屋を飛び出していく。

 そして、すぐに戻ってきて、お菓子が入っている箱を見せて……


「エルお兄ちゃん、これ、御菓子!」

「あ、ああ、ちゃんと御礼するんだぞ」

「ん! ありがとございます」

「い、いやいや、感謝は僕たちの方で……」

「んふー、御菓子、御菓子、ぱくっ、もぐもぐ」

「あ、ジェニ~? お昼ご飯の前に御菓子、いっぱい食べちゃダメですよ~?」


 チョコレート風の御菓子。それをいきなり口に頬張り、ジェニは目を大きく見開く。


「おいひい~~~!!!!」


 早速気に入ったようで興奮して飛び跳ねて走り回る。

 その姿にシンユーも笑みを浮かべた。


「はい、エルお兄ちゃんも」

「あ、ああ、後で食べるよ」

「ん!」

「クロお姉ちゃんも!」

「あら~」

「プシィもあげる」

「おお、かたじけない、ジェニ殿ぉ~!」

「ザンお姉ちゃんにもあげてくる……あ……」


 箱の中には小さな御菓子がたくさん入っていたので、それを皆に配りながら、ジェニはハッとして……


「ねえ、エルお兄ちゃん」

「ん?」

「これ、ネオ魔王軍の皆にもあげてきてイイ?」

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