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【マンガボックス・コミカライズ連載スタート(7/5)】戦犯勇者の弟妹  作者: アニッキーブラッザー
第三章(三人称)

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第53話 決断

「シュウサイイイイイイ!」


 人知を超えた爆発に飲み込まれたシュウサイに、ボーギャックは思わず叫んでいた。

 

「う、うそだ……シュ、シュウサイ様が……」

「あ、……バカな! 人類最強の魔導士であるシュウサイ様が、あ、あんな、あんな子供に!?」

 

 百戦錬磨のボーギャック隊も戦いの手を止めて呆然としていた。

 殺し合いの最中に他に気を取られるなど死に直結する失態。

 だが、そうしてしまうほど、この事態に誰もが冷静でいることなどできなかったのだ。



「は~、ちょっとスッキリ。えっへん」


 

 上空の赤黒い煙の中、胸張ってドヤ顔をするジェニ。

 その姿自体はとても可愛らしいのだが、その振るわれた力によって起こったことが、今まさに世界の歴史を大きく変えてしまった。

 ただ……



「かはっ、がっ……ぐっ……」


「あ……」


 

 その上空の煙の中から黒ずんだ物体が飛び出してきた。

 弱々しい淡い光を纏いながら、飛び出たそれは僅かに身じろぎしながらも、地面にそのまま落下した。



「は、が、かはっ……」



 それは、片手片足を失い、全身を見るも無残な火傷によって元の顔が判別できぬほどの損傷を負ったものの、かろうじて命を繋ぎとめているシュウサイであった。



「うおお、おおお、シュウサイイ、生きておったか!」


「「「「シュウサイ様!?」」」」



 そう、シュウサイはギリギリだがまだ生きていた。自分自身に弱々しくも回復呪文を与えながらも、何とか。

 しかし、瀕死には変わらない。

 それこそ、大魔導士であるシュウサイの回復魔法ですら追いつかぬほどの損傷。



「生きてた……ふーん……怪我治す魔法ってそうやるんだ……」



 シュウサイが生きていたことに眉を顰めるジェニ。

 一方でギリギリ命を繋ぎとめたシュウサイだが……

 


「ばけ、もの……ば、けも、の……ひ、い、い……人外……い、いったい、あの小娘は……ひ、人の皮を被った……ひ、ひえぇえ!!!!」



 ギリギリ生きているだけ。その全身や声は恐怖に怯えて完全に心をへし折られているのだ。

 

「ぬ、う、シュウサイ……」


 シュウサイが生きていたことに一瞬安堵したボーギャックやボーギャック隊たちだったが、これはこれでショックだった。

 肉体的な死を目のあたりにするよりも、この場に居る誰よりも昔から魔王軍と最前線で戦い続けた人類最古の勇者でもあるシュウサイが、完全に心を折られて再起不能な姿を見せているのだから。

 そして、それを魔王軍は見逃さない。



「ジェニ! 本当にすごいです! 本当に! そして、この機を逃しません! 皆さん、今こそ勝機です! 人類最強の魔導士にして、あの八勇将の一人であるシュウサイを、我が妹のジェニが引導を渡しました! 今こそ、我らも力を見せるときです!」



 そう、この機を逃してはならないと、クローナが猛る。



「その通りでござる! 皆の者、駆けるでござる! 今こそ、でござる!」



 既に足元に屈強なボーギャック隊の人間を何人も斬り殺しているプシィも、血に染まった剣を掲げて再び駆ける。

 さらに……


「そ、そうだ……そうだ! 人間が、あのような幼子がこれほどの偉業を成し遂げたのだ! 我らはただ驚いているだけでよいのか! 負けてはならぬ、魔王軍! 僕たちも!」


 戦の序盤でボーギャックたちに重傷を負わされていたガウルもようやく立ち上がり、再び闘志を漲らせて皆を鼓舞する。


「ガウル大将軍が、復活された!」

「やった、こうなれば、もう私たちだって!」

「ええ、負けていられないわ!」

「やるぞォ、俺たちだって、俺たちだって!」

 

 ショックを受けているボーギャック隊とは打って変わって、士気最高潮となった魔族が次々と飲み込んでいく。



「おのれぇ……あの小娘ぇ、あの―――――」


「ボーっとしてんじゃねえよぉ!」


「ぬっ!?」



 この状況を打破するには、ボーギャックが再び同胞の士気を上げるしかない。

 そのために、この場を指揮するクローナなどを討ち取るしかない。

 しかし、それをエルセが阻む。


「飲まれろぉ、落火星!」

「はっ、図に乗るなぁ、小僧ッ!」


 エルセが拳を振り下ろすように振うと同時に、上空からボーギャック目がけて炎の岩が隕石のように降り注ぐ。

 それをボーギャックは荒々しくも力づくで剣で全てを斬り裂いていく。

 が……


「風刃ッ!」

「ぬぅ!」


 その攻撃を目くらましに、高速移動したエルセが死角から容赦なく打ちこんでくる。

 被弾こそしないものの、ボーギャックの頬の薄皮を僅かに切った。


「おいおい、すげーぞ、あのガキも!」

「ああ、人類最強のボーギャックと一対一で……」

「ツエー……目で追いきれねえ……次元が違うぜ……」

「おい、俺たち、助かるかもしれねえぞ!」

「よっしゃ、俺たちもこのクソ野郎どもをぶっ殺して続くぞォ!」


 そしてそれを見て、王都の民衆たちの士気は上がる。

 この状況にボーギャックは歯噛みした。


(ぬぅ……予想外じゃ……ギャンザも帰ってこんし……このままではまずい……私たち三人の八勇将が別動隊でここに来たのは、全て魔王を討ち取るため。そのため、地上では六煉獄将との戦いでとてつもない不利になることを承知で……もしここで私たちが魔王を討ち取れねば……魔王の強さが不明である以上、この場はどうにか温存をと思っておったが、シュウサイがああなり、我がボーギャック隊もこの危機的な状況である以上……ぬぅ……)


 この状況をひっくり返すのは自分しかいない。しかし、ここで消耗しすぎて果たして魔王まで辿り着けるか? 魔王を倒せるのか?

 

(それとも一度この場は撤退……地理は分からぬが、シュウサイが回復するのを待ってから地上へと退却……しかし、そうなると本当に地上での皆の犠牲が全くの無意味になってしまう……地上も甚大な被害、私たちも失敗……そうなれば人類は……)


 それともこの状況に見切りをつけて、退却するべきではないのか? 

 将としてどう判断すべきかをボーギャックは葛藤していた。



「ジェニがあれだけやったんだぁ! 俺だって、俺だって!」



 そしてボーギャックが導き出したのは―――



(魔王の首は諦め、撤退するにしても、やはり最低限の戦果――――テラの弟妹、そしてクローナとガウル、この四人だけは始末! それしかあるまい!)


 

 大魔王という最大の目標は諦め、その手前での最低限の戦果で妥協することであった。

 そして、そうなればこれまでと違う。

 下手に先の見えない「温存」を考えなくて良いからだ。

 そして……



「うおおおおお、いい加減飲まれろぉ! 俺の火―――――」


「シヌカ?」


「ッ!?」



 やるべきことを判断して決断したボーギャックともなれば、状況は変わる。


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