第七話 台所に打ちのめされる少女
自動調理器の性能に驚く梓。
しかし最新型の台所は、手を緩める事なく梓を打ちのめすのでした。
どうぞお楽しみください。
うぅ、悔しい……。
鶏ハムは、胸肉なのにぱさぱさしてなくて、すごく美味しい……。
ビシソワーズ、だっけ? じゃがいもの冷たいスープもさらっとしてて喉越しも爽やか……。
牛肉のトマト煮も、お店みたいな美味しさ……。
そして角煮! トロトロで、なのにしつこくなくて、いくらでも食べれちゃう!
で、自家製パンって何!? パンてお家で作れるものなの!? 外はパリッとしてるのに中はふわふわで、今まで食べたパンの中で一番かも!
どうしよう、勝てないかも……。
「梓、どうした? 美味しくないか?」
「ううん! 美味しいよ!」
「それは良かった」
心配そうなお兄ちゃんの声に、慌てて精一杯の笑顔を向ける。
そうしたら、お兄ちゃんも嬉しそうに笑ってくれた。
そうだ。たとえほとんど機械が作ったんだとしても、お兄ちゃんが私のために用意してくれたんだ。
私の意地とか自分勝手な落胆で、否定しちゃいけない。
むしろ喜んで食べよう。
「お兄ちゃん、このパンすごいね! 美味しいよ!」
「そうか! 良かった!」
「今度作り方教えて?」
「いいよ、一緒に作ろう!」
やった! それすっごい楽しそう!
たとえ量を計ってボタン押すだけだとしても!
「これ角煮を挟んで食べてもいい?」
「いいね! 俺は鶏ハムサンドにしてみよう!」
お兄ちゃんとの食事はとてもとても楽しくて、ついいつもよりたくさん食べてしまったのでした……。
「あー、美味しかった! ごちそうさま!」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
あ、お兄ちゃんが器をまとめてる。
ここで洗い物をして女の子らしさをアピール!
「お兄ちゃん、食器私が洗うよ」
「大丈夫。これに入れれば自動でやってくれるんだ」
「え?」
食器を自動で洗う? そんな機械なんて……。
「ここに入れて、蓋を閉めて、スタート」
「わ! すごい! 噴水みたい! わ! わ! どんどん汚れが落ちてる!」
「ふふっ、梓は可愛いなぁ」
「!」
い、今、可愛いって……!
駄目駄目駄目! 嬉しいけど喜んでる場合じゃない!
「これで洗浄とすすぎと乾燥までやってくれるんだ。終わったら食器棚に戻すだけだよ」
「じゃ、じゃあそれを私が……」
「うーん、でもちょっと届かないかなぁ。シンク周りは調理家電を置いてるから、食器は上の棚に入れてるんだよね」
う、それは……。
お兄ちゃんは背が高いから平気だろうけど、私には踏み台がないと無理な高さだ……。
「梓の使う食器は、ここに置く事にしようか」
そう言ってお兄ちゃんは、お盆を一つ置いてくれた。
でもこれじゃ、自分の事しかできないよ……。
「そんなに落ち込まないで。もう背が伸びないと決まったわけじゃないんだからさ」
「!」
ぽんと頭を撫でてくれるお兄ちゃん。
悩んでるのはそこじゃないんだけど、その優しさと大きな手が撫でてくれる感覚に、私の心はふわっと温かくなったのだった。
読了ありがとうございます。
食洗機、うちにも一台欲しいんですよね。
中が見えるタイプのもので、水が縦横無尽に暴れ回る様をずっと眺めていたい……。
次話もよろしくお願いいたします。