第十話 寝室に打ちのめされる少女
お風呂で気持ちよくなってしまった(意味深)梓。
そんな蕩けた梓に、最新鋭の寝具は容赦なくその力を振るうのでした。
どうぞお楽しみください。
……結局お風呂で癒されすぎて、晩御飯もお兄ちゃんに任せちゃった……。
でも鶏肉たっぷりのクリームシチュー、美味しかったぁ……。
あの自家製パンに浸して食べると、もうたまらない……!
「安眠には鶏肉と牛乳がいいって聞いたから。いい夢見れるといいね」
はあぅん!
お兄ちゃん優しすぎ!
さらに食後にココアを入れてくれる気遣い!
……嬉しいけどこのままじゃいけない……。
最後の手段をまさかこんなに早く使う事になるなんて……!
「梓。明日は不動産屋さんを回ってアパート探すんだろ? そろそろ寝るか?」
来た!
紳士的なお兄ちゃんの事だから、私用に別の部屋を用意してるはず。
でも一つ屋根の下、寝ぼけたフリをしてお兄ちゃんの布団に入っちゃえば……!
「俺は隣の仕事用の部屋で寝るから、ゆっくり休んで」
流石に寝ぼけて玄関出てお隣に行くのは無理がある!
何とかしないと!
「あ、あの、お兄ちゃん……。ま、まだこの家に慣れてないから、お兄ちゃんが一緒だと、その、安心だなぁって……」
こ、子どもっぽいと思われるのはマイナスだけど、上京してきた今日なら許されるはず!
お願いお兄ちゃん!
「そうだよな。わかった。寝るまでそばにいるよ」
「あ、ありがとう!」
やった! お兄ちゃんやっぱり優しい!
「ここが客間。ベットだけど寝れるか?」
「う、うん、多分大丈夫」
「このベッドさ、『ビューティフル・スリーパー』って言って、すごくよく眠れるんだよ」
「そ、そうなんだ……」
ベッドのある部屋にお兄ちゃんと二人きり……!
そ、想定していたはずなのに、どきどきが止まらない!
どうしよう! こんなんじゃ寝れるはずないよ!
と、とりあえず横になって……。
「寒くない?」
「う、うん、平気……」
顔が熱い!
あ! 「寒い」って言ったら一緒に寝てくれたかな!?
……ううん、エアコンの温度を上げてくれるだけだよね……。
「梓」
「な、何? お兄ちゃん」
「俺、梓が来てくれてすごく嬉しい」
「え、え!?」
お、お兄ちゃん!? 何で急に、そんな……?
「仕事が成功して、お金はたくさん手に入ったけど、そうしたら周りはそのお金目当てな人ばかりになった」
「お兄、ちゃん……?」
「梓はそんなの関係なく、昔のまま俺の側にいてくれる。それがすごく嬉しいんだ」
お兄ちゃん、そんな風に思ってくれてたんだ……!
嬉しい! けど寂しい……。
お兄ちゃんは幸せに暮らしてると思ってたから……。
私を必要としていてほしい。
でも私がいなくても幸せでいてほしい。
……何でこんな気持ちになるんだろう。
私はお兄ちゃんのお嫁さんになりたい。
でもそれはお兄ちゃんが、苦しくて、辛くて、仕方なくて私の手を掴んでほしいんじゃない!
お兄ちゃんに、本っ当に「お嫁さんにしたい」って思われてなりたいんだ!
だから、私、は、お兄、ちゃん、に……。
「眠たくなったかい? 遠慮なく寝ていいからな」
「お、兄、ちゃん……」
言わ、ないと……。
お兄ちゃん、が、大好き、だって……。
「お疲れ様、梓」
「だ、め……、あたま、なでひゃ……」
この、ベッドの、せいで、わた、し……
「はっ!」
目が覚めると、窓の外にはお日様の光と小鳥の声……。
んにゃあああぁぁぁ!
大事なところで寝ちゃったあああぁぁぁ!
このベッド! 駄目! 何か駄目!
くぅ、折角のチャンスだったのに……!
何が『ビューティフル・スリーパー』よ!
寝心地が良すぎるのよ!
「梓、起きたか?」
「ふぇ!? あ、う、うん、起きたよ……」
「朝御飯できてるから、顔洗っておいで」
「あ、ありがとう……」
ま、負けないもん!
いつかこのベッドに勝って、お兄ちゃんのベッドに潜り込むんだから!
読了ありがとうございます。
今布団に潜り込んでも、撫で撫でされるだけですね。
だ が そ れ が い い
後二話で完結する予定です。
どうぞ最後までお付き合いください。




