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死なないために

 ──まずは、状況の把握だ。


 メッセージに記載されたルールを、念入りに確認する。

 まず前回と違って、今回の勝利条件──新規獲得した魔硝玉を審査員に渡すこと、が明確に示されていた。

 留意事項として、当然ではあるがすでに所持している魔硝玉を審査員に渡したとしても意味はないとのこと。

 また、もし二つ以上の魔硝玉を納めた場合は、ボーナスにさらなる特典がつくそうだ。


 ……気になるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()、だな。


 メッセージの中に、装備に言及した箇所を見つける。


 ──プレイ期間による格差是正のため、三階位以上の装備は使用できません。また、二階位の装備を持たないプレイヤーには、主催者から装備が提供されています。


 ロストワールドでの強さを決定する要素は大きく三つある。

 装備の強さ、使える魔術やスキルの豊富さ、プレイングのテクニックだ。

 特に装備の強さは大きく影響する。やり込んだ古参プレイヤーはそうでない新規に比べて、装備の豊富さという大きなアドバンテージを持つが、装備制限をかければその差は大きく減る。


 ゲームのバランスを取る上で必要な措置といえた。


(……だが、本当にそのためか?)


 ホッジには別の意図が隠されているように感じた。


(おそらくこれは──)


 そのときだ。遠方から近づいてくるプレイヤーの気配を察した。

 地をかける足音。それも複数。


 弾けるように、ホッジは身を屈めた。

 ホッジ今、民家ほどの大きさの小高い丘の上にいた。頭を下げれば周囲からは死角になる。


 前方は、切り立った崖になっていた。

 プレイヤー達は、ちょうどその崖の下を通過していったようだ。

 ホッジは崖から顔を覗かせ、プレイヤー達を確認する。


 逃げる男とそれを追いかける男。


 追いかけている方をじっと見つめると、その頭上に赤い文字でプレイヤー名が表示される。

 ロストワールドで他のプレイヤーを殺すと、一定期間プレイヤー名が赤く表示され、プレイヤーキラーであることがわかるようになっている。


 逃げていた男はプレイヤーキラーに追いつかれ、斧で切りつけられる。

 どうやら、すでに体力が尽きかけていたようだ。

 彼は最後に、プレイヤーキラーに悪態をつき、その場に倒れた。


 被害者に切羽詰まった様子がなかったので、デスゲームの参加者ではなかったと思われる。参加者としてプレイヤーキラーに襲われる状況は、想像したくないものだ。

 プレイヤーキラーも本当にプレイヤーを殺すことになるとは夢にも思っていないだろう。最初のゲームといい、このデスゲームを企画しているものは相当に性格が悪い。


 何にせよ、プレイヤーキラーに真正面から立ち向かうわけにはいかない。


 ホッジは作戦を練り始めた。


 ◆ 


 ウェンタス高原の最奥部に、『宝珠洞』という洞窟がある。


 宝珠洞では、魔硝玉をはじめとしたさまざまな希少アイテムを取得できる。


 そのため、デスゲームの参加者だけでなく、ロストワールドを普通にプレイするプレイヤーや彼らを狙うプレイヤーキラーの集まる場所だった。


 高台の上。宝珠洞の入口を見下ろせる場所に、そのプレイヤーは身を伏せていた。


 フードのついたマントを羽織り、フードの中から印象的な紫の髪をした少女の顔が覗いている。


 少女は、単眼鏡を片手に、入口を監視していた。

 他のプレイヤーが通りかかるのを待っていたのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 宝珠洞の中はアリの巣のように複雑に入り組んでいる。

 慣れたプレイヤーキラーであっても、そうすぐにプレイヤーを見つけられるものではない。

 それゆえに、彼女は入口で網を張っていた。


 その少女の前に、狙っていたものが現れる。

 白いバンダナを巻いた青年のアバター。


 少女は、洞窟の入口へと近づいていく青年をじっと観察する。


 すぐに出ていきはしなかった。青年の力量を見極めなければいけないからだ。

 青年の両腿には、魔術書とナイフがそれぞれホルダーに収められて下げられていた。


 彼は魔術職とみて間違いない。ナイフを下げているので多少は近接戦闘もできるようだ。


 今の所あの青年を標的とするのに大きな問題はない。

 少女は、いつでも飛び出せるよう準備をする。


 だが、青年は洞窟の入り口に近づいたところで、ふと足をとめた。

 首を振って、周囲を見回す。


 ……何をしている?


 少女は、眉を潜めた。

 そのときだった。ぱっと、少女のいる場所へ顔を向けたのだ。


 ──っ!


 反射的に頭を引っ込める。

 様子を伺いながら、また顔を覗かせると、青年は反対方向も見回していた。

 しばらくすると、何を考えたか洞窟から離れていった。


 気づかれた? ……いや、あそこからは見えないはず。


 少女は薮の中に身を隠しており、青年の位置からは視認できないはずだった。


 ……どうも、調子が出ないな。


 少女のモットーは、自分が楽しむことだった。

 それは簡単なようで、実はそうではないと彼女は考えていた。


 むしろ、自分の楽しみを犠牲にする方が、簡単だ。

 自分を殺して他者に迎合する方が、ずっと楽で怠惰だ。

 でも、それでは本当に自分が楽しむことはできない。


 妙な青年に集中を阻害されてしまったが、一度呼吸を整える。

 監視を再開したそのときだった。


「どうも。邪魔するぜ」

「!」


 振り返ると、そこには先ほどの青年が立っていた。


「いいなこの場所。入口を見張るには絶好のロケーションだ」


 少女は、なぜ青年が洞窟の入口で周囲を見回していたか、察した。

 入口を見張れそうな場所に、当たりをつけるためだ。


 つまり青年は、少女のようなプレイヤーを狙うプレイヤーを、見つけ出そうとしていたということ。

 反射的に少女は、腰に下げた剣の柄に手を添えた。


 青年は慌てたように手を上げる。


「待て待て落ち着け。俺はホッジ。()()()()()デスゲームの参加者だ」


 ◆


「………それで、何の用?」


 目の前の少女は、こちらの狙いを探るようにじっとホッジの方を見つめてきた。


 間違いなく警戒されている。突然接触されたのだから無理もないことだ。

 だが、このような場所で他のプレイヤーを探しているのをみる限り、交渉できるはず。


「単刀直入に言うと仲間にならないか。お前も同じことをしようとして、こんなところで網を張っていたんだろ?」


 プレイヤーキラーは対人用の装備やスキルを持っている。さらに今回のゲームは装備が制限されており、一人でプレイヤーキラーに立ち向かうのは、リスクが大きい。

 誰かと仲間になる必要があるというのが、ホッジの結論だった。


 仲間を見つけるにしても、もちろん他の参加者を覚えている訳ではない。

 だが、装備制限で外見からある程度の絞り込みは可能だ。さらに、デスゲームに関して口外が禁止されているため、このことは参加者であることの確認に使える。


 闇雲に参加者に打診するよりかは、同じ目的を持った参加者に持ちかけた方がてっとり早い。

 そこで、入り口付近で待ち伏せしている参加者を探していたわけだ。


「……まあ、仲間を探していたのはその通りだね。でも、相手は選ばないとお互い不幸になるから」


 ようはホッジが仲間に値するか、判断しかねているわけだ。


「ふむ。それはそうだな」

「君こそ、私を仲間に選らんでいいの?」

「お前、密偵スカウト職だよな? だったら文句ないな」


 密偵スカウトは、索敵に長けたスキルを持っている職種だ。

 今回のゲームの仲間としては申し分ない。


「そう。じゃあ質問だけど、君はどれくらい強いの?」

「開始当初からやっているから、ロストワールド歴は長いけど」


 やり込みには自身があったが、強さをどう示したものか。

 残念なことにホッジはこの手のプレゼンが苦手だ。


「古参なんだ。もしかして、ハイランカーだったり?」

「……いや、そもそもギルドに入っていない」

「そうなの……? 珍しいね」


 ロストワールドでは、様々な形でクエストが発生する。

 プレイヤー同士でギルドを発足すると、ギルドの専門分野にあったクエストが集まるようになっている。

 クエストをクリアすると、難易度や達成度に応じて、ギルドやプレイヤーが評価される。

 この評価値に基づいてランキングが作られている。

 ハイランカーのギルドやプレイヤーは、ロストワールドの中でも羨望の対象だ。

 評価の高いギルドは、難易度の高いクエストがより優先的に回るようになっており、さらに評価値が伸びやすくなっている。ランキング上位を狙うなら、ギルドに入ることが必須だ。


「新エリアの開拓をメインにやってる。エリア到達系の称号は結構持ってるけど……」


 ロストワールドの称号は、基本的に長くプレイしていれば取れるものだ。エリア到達系なら、強い仲間に連いていけば、自分の強さに関係なく取得できてしまう。


 微妙な雰囲気が漂い始める。

 そして、次に少女がした質問は、最も返答に困ることだった。


「……君、魔術師だよね。何の属性が使えるの?」

「…………全属性」

「全属性?」


 驚いた様子で尋ね返してきた。

 彼女の驚きは、けっして良い意味ではなかった。

 だが、ホッジはうなずくしかなかった。


「そうだ。全属性だ。……いや、言いたいことはわかる。特定の属性に特化しないと、割り振るポイントが足りなくて強力な上位魔術が使えないんじゃないか、って聞きたいんだろ? まあ、その通りだし、器用貧乏と思うかもしれないが、色々工夫してカバーしている」


 親しいフレンドくらいしか、理解してもらえないプレイスタイルだ。

 このプレイスタイルが弱いかは、状況と戦い方次第だとホッジは思っていたが、はたして出会ったばかりの彼女を説得できるだろうか。


 ……無理かもしれない。

 この際、奥の手(土下座)を使うのもやぶさかではなかった。


 おもむろに手を地につこうとしたところで、少女が答える。


「……いいよ、組もう」

「え、マジで?」

「そんな驚かなくても。正直、強すぎる人と組むのもどうかと思ってたんだよね。ほら、どうしても強い人に頼り切りになっちゃって、そういうの良くないじゃん?」


 賛成できる考えだった。ギブアンドテイクできる相手の方が、良い関係を築けるものだ。

 まさか、あまり強いと思われなかったことが、逆に功を奏するとは。


「私はピヨコ。よろしくね」


そう言って彼女は手を差し出した。手を取ってホッジは答える。


「あらためて、ホッジだ。こちらこそ、よろしく」

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