表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/180

第98話 吹きすさぶ風が




 王都ケースド=フォートランの一角、と言うには大きすぎる面積を持つのは所謂王城だ。王族の住居にして、政務の中心、軍務の中枢。皇居と永田町と市ヶ谷が合体したような存在である。今、その施設の一つ、近衛第1訓練場にてフォートラントの近衛と、フィヨルトとの甲殻騎模擬戦が行われようとしていた。


「ほほほっ、胸が高鳴りますわ!」


 そう、悪役ムーブをかましているのは、もちろんフォルテだ。訓練場の隅っこにテーブルと椅子を持ち込み、優雅に茶を飲んでいる。


「さて、どれくらいやってくれるかな」


 ご相伴に預かるのはフミネである。



 ちなみに彼女たちは、彼らが負けるはずがないと確信している。ライドとシャラクトーンが騎乗する『ハクロゥ』が負けるところなど、想像すらしていない。まあもし負けることがあれば、自分たちがオゥラ=メトシェイラを持ち出す予定だ。その後、ライドたちは恐ろしい目に会うことになるだろう。


「随分と変わった騎体ですな」


「そうだな。あのような調整で動けるのか」


「見てみない事には、なんとも」


「報告では聞いているが、あの筒状の装備が風を吹かせ、跳ぶようだ」


 王国騎士団長ビームライン・ジェルド・バルトロード伯爵と王太子の会話であった。


 それほどフィヨルトの甲殻騎は異質だったのだ。国色の濃灰色はどうとして、上半身が分厚く、逆に下半身は繊細にも見える。特徴的なのは二つ。ひとつは足首があるという事だ。これまで多くの試行錯誤が為されたが、負荷がかかり易く、戦闘時に破損する可能性の高い部位の一つであり、要はオミットされていた箇所である。


 もう一つは、両腕、両脚、背中に装着された合計7つの扁平筒状の物体だ。あれが報告で聞かされた風を纏う装備なのであろう。彼らがそれの真価を見届けるのは、もう少し後である。



「な、なあ、シャーラ」


「な、なに?」


「変な汗が出ている気がするんだよ」


「わたしもよ。どうしよう」


「そうだな。じゃあこうしよう。この戦いが終わって学院を卒業したら、僕と結婚してもらえるかい?」


「最高に情けない感じで、素敵ね。喜んでお受けするわ」


 ライドとシャラクトーンは変なフラグを立てつつ、思いを伝えあっていた。



 ◇◇◇



「ではここに王太子殿下とフィヨルト大公閣下の御臨席の元、フォートラントとフィヨルトの模擬戦を行うものとする」


 騎士団長が高らかに宣言した。


 片やフォートラントは第4世代ザルトスタ型上級甲殻騎、もう片方は自称第5世代スレイヤー型上級甲殻騎。


「始め!!」


 ぶっちゃけ、ライドは戦士2級、右騎士2級であり、シャラクトーンは戦士3級、左騎士2級である。すなわち騎士としては十分であるが、左右1級が当たり前の近衛に対しては、格下感は否めない。


「うおおお」


 近衛騎士が突き出した穂先に対し、ハクロゥはスラスターを全開にし、後方に飛び退った。当初の間合いが3倍になる。やりすぎだ。場が凍り付く。


「今のってなんだ?」


「後ろに下がっただけなんだろう。だけど、あれは流石に」


「速過ぎる」


 そう、見たことも無い回避速度だったのだ。間合い云々以前である。


「ライド、シャーラ。攻めなさいまし!!」


「避けるのは簡単でしょ? そこからどうするの!?」


 フォルテとフミネから檄が飛ぶ。それに否を唱えることが二人に出来ようか。


「一歩だよ! 一歩で間合いに入れて、間合いを外すんだ!」


 ああ、自分たちは幸せだ。フサフキの神髄を知る者が身近にいるのだから。



「おらあああああ!」


 だから勇気を込めて、跳躍しながら、一歩を踏み込んだ。スラスターを吹かし、体勢を低くし、相手の左側へと。ライドもシャラクトーンからも、敵対する騎士が瞠目したのが見えた。横なぎの一撃が来る。


 そこからさらにもう一歩。大きく踏み込んだハクロゥは完全に相手の背中を取った。



 こつん。



 フォートラント近衛の騎体に、背中から穂先が押し付けられていた。



 ◇◇◇



「いや、もう無理。無理です」


「そこを何とか! 是非私も一手」


 5騎を下したと言うのに、まだまだ対戦を望まれた。そこには敵討ちなどという意志は感じられなかった。純粋に強者に挑みたいという心意気だけがあった。故に、断りにくい。


「残りは6騎ですわね。それではいっぺんに、6対1でどうぞ」


「姉さん!?」


「フォルテ!?」


 ライドとシャラクトーンが、悲鳴じみた叫びをあげる。だが容赦などない。


「フミネ、言いたいことを言ってあげなさいな、後は任せますわ」


「いいの?」


「勿論ですわ」



 フォルテの許可を得たフミネはすっと、息をすった。そして言う。


「うん、わたしたちなら2分以内だね」


 恐るべき追い打ちがフミネから語られる。


「そうだね、助言するわ。騎体性能に頼り過ぎだよ。根底を忘れちゃ駄目だよ。踏み込んで、そこから繰り出す。後は自分で考えて」


「いや、でも」


「フサフキ」


 ライドの抗議にフミネは一言だけを返した。


「もう一回言うよ。フィヨルトで学んだフサフキは、そんな大げさな物なの?」


 フォルテは腕を組んで黙っている。ただ、試しの儀のように。ライドとシャラクトーンの背中に冷たい汗が流れた。奴らはマジだと。


「わたしの義弟と義妹は、分かっていないの? それとも分かっていて出来ていないの? まさか、ここで私たちが出てきて、相手を蹴散らしてはい終わり、なんてオチを期待しているの? 騎体性能は十分。それでも出来ないって言うの?」


 フミネは何を言いたいのか、それが二人には伝わり始めた。次の言葉が予想出来始めていた。


「ファインとフォルンはやったよ。実戦の殺し合いでやったよ。まさか、こんな茶番でピヨったりはしないよね? ライド! シャーラ!! 勝ちなさい!!」


 ぶるりと二人に震えが走る。これは演武でもなければ、示威行為でもない。ただ二人がフィヨルトであることを示すだけの場だ。


「おう!」


「やるわ!!」


「そうだよ、吹きすさぶ風になれ!」


 フミネの言葉が背中を押す。



 5分後、近衛騎士6騎は落ち、ハクロゥだけが訓練場に立っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ