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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第90話 ドルヴァ紛争と呼ばれた戦い




「はい、ご清聴ありがとうございました」


 名乗りを上げ終えたフミネはあっさりとしたものだった。


「では始めましょう。蹂躙ですわ!」


 とてつもなく物騒なことを言いだすフォルテに、フィヨルトの戦士たちは覚悟を決めた。やるぜ、俺はやるぜ。


「第5騎士団は受け止めるだけで充分ですわ。それと地上の皆さんは、わたくしが敵を壊しますので、安全に配慮しながら捕虜の捕縛ですわ」


「了解いたしました!」


 有無を言わせぬ絶対命令であった。



「でさ、フォルテ。左腕大丈夫?」


「痛いですわ。それだけのことですわ」


「そっかぁ、さっきはフォルテの見せ場だったじゃない。ちょっとわたしも出番が欲しいなって」


「了解ですわ。力を委ねましょう」


「ありがと!!」


 二人の特徴のひとつに、フミネの意志で操縦が可能であることが挙げられる。これは一般の騎体でも可能ではあるが、まず出来ない。右翼騎士が左翼騎士に完全に制御を委ねる必要があるからだ。余程の信頼と、左翼騎士が右翼騎士同様の適性を持たなければ不可能な芸当なのだ。


 それをフォルテとフミネはやってのける。フミネは操縦と制御、フォルテはただそれに身を任せてソゥドタンクとなる。フォルテは制御関係はさっぱりなので、本当に委ねるだけなのだが、それが難しいのも、また事実である。



 ずごぉぉん!



 ヴァークロートの1騎が崩れ落ちた。いや、後を追うようにさらに2騎だ。オゥラ=メトシェイラを囲んでいたはずなのに、外周にいたはずの1騎に膝が叩き込まれていた。残り2騎はと言えば、包囲を抜けるついでに、通り抜け様、肘を叩き込んだだけのことだ。


 そして、その一連の流れを、まわりは認識できなかった。先ほどまで圧倒的運動性で敵を翻弄していたオゥラくん。それより一段、いや2段階は速い。それは最早、甲殻騎を名乗る別のナニカだった。


「えっと、これで7騎かな?」


「最初に踏みつぶしたのと、わくしが無力化したの、それから両腕で倒したのに合わせて……、合っていますわ」


「じゃあ、7騎!!」


「軍務卿の真似ですの?」


「まあ、弔いとまでは言わないけどね。っと、8騎!!」



 ◇◇◇



 5分、フミネが本気になってから、たったそれだけ。オゥラ=メトシェイラが参戦するまで、ヴァークロートの甲殻騎は56騎。それが今や30騎を割り込んでいた。


「5分で13騎! 勝った!!」


「何にですの?」


「心の中の何かに!」


 敵がこれだけ密集していたのだ。オゥラ=メトシェイラにとっては、カモ以外の何物でもなかった。


「ふぅ、満足した。まだまだ怒り足りないけど、一旦フォルテに預けるわ」


「私も怒っていますわ! 狩りつくしますわよ!!」


「フィヨルトに手を出すってことがどういう意味を持つか、思い知らせよう!」


「第5騎士団、随伴歩兵を乗せて迂回機動ですわ! 森の中でビビっているヴァークロートの歩兵を囲んで無力化してくださいませ!!」


「了解! 野郎ども、出番だ!! 一匹も逃すなよ!」


「おぉう!!」


「さあて、わたくしたちも平らげますわよ!」



 膝、穂先、肘、肩、背中を使い次々と敵を打倒していく、オゥラ=メトシェイラ。だが本来はこうはならない。今回の場合は、先に戦闘状態に入っていた疲労、不具合、さらにフィヨルトの圧倒的な士気、指揮官の脱落。そしてなによりも、オゥラ=メトシェイラが初見であったということだ。いくら高い運動性を誇るとは言え、計画を立てて60騎に囲まれてはタダでは済まない。


 だから今回無双しているは、まあ初登場補正というやつになる。勝てばなんでも良いのだ。



 そしてさらに5分。敵が20騎士以下になった段階で、ヴァークロートの数的有利は失われた。しかも指揮官不在である。必然的に瓦解し、潰走することとなる。だがそれを咎めるのは当然フォルテとフミネであった。


「1騎とて逃がしませんわ!」


「心の底から恐怖して、後悔しろ! 二度と戦場に出れないくらいには、心を砕く!」


 怒れる悪役は、まさに悪鬼のごとく、背を向けた敵を倒し続けた。そもそも、こちらの方が遥かに速い上に森の中では第5騎士団が待ち受けている。一匹たりとも逃がさないという、フィヨルトの強い、強い意志は、言葉の通りに遂行された。



 ◇◇◇



 フィヨルト側損害、甲殻騎72、大公、大公妃、軍務卿を含む騎士28、歩兵82。ヴァークロート側損害、甲殻騎112、帰還騎無し。指揮官を含む騎士47、歩兵52。捕虜として騎士181、歩兵312。


 後に『ドルヴァ紛争』その他、国にとって呼び方は変わるものの、ヴァークロート侵攻によるドルヴァ渓谷における戦いは、多大な犠牲を出しながらも、フィヨルトの完全勝利という結果をもたらした。



 この結果にヴァークロート中枢は恐慌をきたした。東部の守りを薄くしてまで抽出した南部諸侯軍1個連隊と、東部前線から引き抜いた1個大隊が、文字通り溶けて、消え失せたのだ。


 責任を取る必要があった。よって、今回の戦いはフォートラント王国宰相による策謀ということで決着がついた。ここにヴァークロートと連邦中央の間に深い溝が出来てしまったのだ。



 ◇◇◇



 この戦いにおける戦訓というか、勝利の原因はただ一つ。第五世代を名乗りながらも余りの整備性の悪さと、使い勝手の悪さから幻の騎体となってしまった『オゥラ=メトシェイラ』と同時にそれを実戦レベルで使いこなした、両翼の騎士の存在。単騎が戦局をひっくり返す。



 すなわちフォルテとフミネの名を大陸に轟かせる、そんな戦いであったのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] たった一つのシンプルな答え……あなた方は、わたくしたちを怒らせた! 白い悪魔っぽいことできたら誇らしいよね。
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