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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第87話 受け継げ!!




「フォルン、とにかく工廠まで飛んで!」


「ファイン、頼みますわ」


「任せてくださいですわ!」


「わかった」


 ベアァさんはオゥラくんを抱えたまま、砦の壁を越え、工廠区画へと跳ぶ。工廠の扉は開かれていた。


「伝令から連絡は入ったよ! 急ぎな!」


 工廠長のパッカーニャが門前で手を振っていた。


「整備は済んでる。上々の仕上がりさぁ。後は継承するだけだよ」


『継承』。完全な新規騎体であれば、無の核石を設置するだけである。だが歴戦の騎体から核石を移植すると言う方法がある。色々と言われているが、曰くソゥドが馴染んでいる、戦闘経験が蓄積されている等々。要は、実戦向きの手法なのだ。時間さえあれば。


 あえて、今それをやる。やるしかない。新型騎には核石が搭載されていない。最初からオゥラくんの物を継承する前提で設計されていたからだ。



「じゃあ僕たちは、工廠を守るから!」


 そう言って、双子は外に向かった


「お嬢、フミネ様、もっと寄せとくれ」


 工廠内にはハンガーベッドのような台座に乗せられた新型騎があった。上半身が斜めになるように傾けられ、騎体各所には甲殻腱が接続され、モニターされている。


「もうちょっとです、もうちょっと」


 スラーニュとファイトンがオゥラくんを誘導する。それに応え、オゥラくんは這いずるように、そして新型騎に寄り添うように停止した。


「お嬢様とフミネ様はそのまま騎乗していてください。合図をしたらソゥドをお願いします」


 そう言ってファイトンはオゥラくんの下腹部に備えられたハッチを、複雑な手順で開放していく。新型騎の方はすでにハッチが開かれ、甲殻腱が取り出されていた。


 ファイトンとスラーニュが二人がかりで丁寧に、甲殻腱が巻き付いたオゥラくんの核石を取り出した。核石は濃紺に染まっていた。そうして今度は、新型騎から伸びた甲殻腱を丁寧に編み込んでいく。均等になるように、まるで模様の様に。


「ソゥドを流してください。丁寧に思いを込めて。生まれ変われと念じながらです」


 スラーニュが神聖な言葉のような表現で言った。


「わかりましたわ」


「うん」


 二人がソゥドを流す。オゥラくんに感謝を込めて、そして新しく生まれ直し、また一緒に戦おうと。ゆっくりと、丁寧に。



 ソゥドを流してから直ぐに、核石は透き通り始めた。やがて、完全な透明となる。そして、ゆっくりと、元の色を取り戻し始めた。いや以前にも増して輝いていた。


「継承完了だね。さ、起動準備だ! とっとと乗り移りな」


 パッカーニャが二人を促す。ファイトンとスラーニュは、オゥラくんから核石に繋がった甲殻腱をほどく作業に入っていた。


「今までありがとね」


「感謝していますわ」


 二人は、そっと元オゥラくんの騎体を撫で、新型騎へと飛び移った。そして着座する。


「しっくりきますわね」


「うん、ピッタリだよ」


「そりゃそうさ、オゥラくんの操縦席を微調整して、そのままで再現したんだからね、苦労したよ」


「ありがとうございます」


「良い仕事ですわ」



 そんな時だった。あとは起動して戦場に舞い戻るだけだった。決して時間のロスは無かった。各員がやるべきことをやって、最短で作業を完了しようと尽力した。


「お姉様!! お姉様!!」


「お父様が! お母様がぁぁ!!」


 ファインとフォルンの声が工廠内部に反響した。



 ◇◇◇



 フォルテとフミネは、双子の声を聴いた瞬間、理解してしまった。事実を実感してしまった。


「おおおおおおお!!」


「フォルテっ!?」


「ああああああああああ!!」


 フォルテが叫ぶ。膨大なソゥドが流れ出る。全く制御されていない、荒れ狂う力が騎体に流れ込んだ。


「くっ! ファイトン、スラーニャ。急いで!! 核石を!」


 二人が慌てて核石を新型騎に設置し、ハッチを閉じた。


「設置完了! 各種確認作業に……」


「全種確認作業を省略っ!! このまま出ます!」


「っ、しかしっ!」


「どの道無駄です」


 今、フミネにはフォルテの発した膨大なソゥドが、叩きつけられている。それでも彼女は制御する。両手の指貫グローブがこれまでに無く蒼く眩しく輝く。


「フォルテぇぇ!!」


「づあああああああ!!」


 フォルテは正気ではなかった。両目から涙を溢れさせ、嚙み切ったのか唇の端からは血が流れていた。



「総員退避ぃぃ。地下壕に潜って! 後は良いから」


 フミネが叫んでいる間にも、静的確認用の赤リボンを付けたピンが弾け飛んでいた。


「後は、たのんだよ! いいかい、生きるんだ。生きて帰って来ておくれ! 幾らでもなおしてやるからさぁ」


 パッカーニャが叫び、ファイトンやスラーニュ、その他の整備員たちも緊急退避用の地下壕に入っていった。


 フミネは決断を迫られていた。出来るのか? いや、やるしかない。フォルテがこんなな今だからこそ、自分は怒りを残しながら、それでも制御しなきゃならない。



 荒れ狂うソゥドを繊細に丁寧に制御しながら、新騎体を探っていく。下腹部に設置された核石を中心にして、騎体の隅々までソゥドを過不足なく流し込んでいく。出来ている。


「余剰分はスラスター!! 確認用伝導腱解除!!」


 ばつん、ばつんと確認用甲殻腱が脱落していく。新型騎を縛るものはすでにない。そして。


「フォルテぇぇ、歯ぁ食いしばれえええ!!」


 フミネは後部座席からフォルテの頭をぶん殴った。反動でフォルテの顔面が正面計器に叩きつけられる。


「フミ、ネ……?」


「フォルテが怒り狂っているから、わたしが出る幕なくなったじゃない! わたしだって、わたしだって!」


「ごめんなさい、ですわ」


「いいよ。だけどさ、徹底的にやるよ。もう二度とフィヨルトに手を出す気になれないくらい、とことんやるよ」


「当然ですわ!」


「了解、じゃあいくよ!」


「いきますわ!」


「前進用スラスター全基全開! 発進!!」


 新型騎に付けられた『前進用スラスター合計9基』がこれまで溜め込むにいいだけ溜め込んだ、膨大な熱風を地面に叩きつけた。



 その騎体は、工廠の天井をそのまま突き破り、遥か天高く、飛翔した。



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