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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第81話 大公フォルタファンヴァード・フィンラント・フォート・フィヨルトの戦場




「そうか、ご苦労」


 ドルヴァ砦からの緊急の報告を受けた大公は、小さくため息をついた。甲殻獣氾濫、フィヨルトに住む者たちにとって、洪水や干ばつと同じように、自然災害の一種とすら言える。人口2万の国に、24個もの甲殻騎中隊と歩兵、その他を合せ約4000名もの戦士を抱えているのはこの時のためだ。


 人口比で言えばとてつもない数字だが、戦士たちはソゥドの力を持ち公共事業などでも活躍している。また、肥沃な大地による食料自給率と、甲殻素材の連邦への流通による経済も成立しているのがフィヨルトの現状だ。


「軍務卿、出撃準備だ」


「はっ!」


 大公が軍務卿デリドリアスに出した命は簡単なものだった。


「規模は20000ですな。第1から4個、第2、第4から2個づつで8個中隊ですかな」


「私も出るぞ」


「それは……、理由はおありで?」


「氾濫の速度が高すぎる。大型個体の報告も無い。おかしいとは思うだろう」


「それは確かに。では、閣下と私も出撃ですな。前線は久しぶりです。腕が鳴りますな」


「もう1騎連れて行くわ。ファインとフォルンを」


「なっ!?」


 同席していたお妃、メリアがとんでもない事を言い出した。12歳の息子と娘を戦場に出そうと言うのだ。デリドリアスが思わず声を上げる。


「戦場を見せておきましょう。大丈夫、あの子たちは優秀だから。もちろん後方待機です」


「そ、それならば、まあ」


「メリア、何か気になるのかい?」


「ええ閣下。ですが、あの子たちの速さはフィヨルトでも3本の指に入ります。逃げるだけならまず大丈夫でしょう」


 実はオゥラくんに次いで、2番目の可能性が高い。クーントルトと良い勝負だ。なにげに双子は大型騎のベアァさんに4つのスラスターを着けて、それを自在に操って見せたのだ。若さの吸収力とは凄いのだ。



「北の第3騎士団は残そうか。大河の反対側と言え、村も心配だ。後は南の第5、東の第7騎士団を呼び戻して、フィヨルタの防衛をさせようか。まあ戦略予備だね」


「畏まりました。各方面に伝令を送ります」



 これが、第8騎士団が死闘を繰り広げていた、3日ほど前の会話だった。



 ◇◇◇



「さて、諸君。久しぶりの氾濫だ。相手の規模は20000程度で、大型は確認されていない。対するこちらは私も含めて、8個中隊。まあ70騎ちょっとだ。出来るね」



 うおおおお!!



 簡単で簡素な出兵式じみたものは、ものの30分で終わり、中隊単位での進軍が始まった。先頭は第1騎士団長フィート=フサフキ・コース・ライントルート男爵。ちょっとやさぐれてはいるが、国内最年少騎士団長にして、男性唯一のフサフキでもある。実は苦労人だ。


 第1騎士団、3個中隊の後続には大公とメリア、双子、軍務卿と3騎が続く。これが小隊扱いはちょっと無い。それに、第2、第4騎士団から4個中隊が後方となる。



「これはちょっと予想外かな」


「ええ、速すぎますな。儂の経験でもここまでは記憶にありませんな」


 2日後に到着したドルヴァ砦にての、大公と軍務卿の不穏な会話だ。単純に氾濫の移動速度が予想を超えていた。あと3日もかからない内に砦まで到達すると報告が入ったのだ。


「やることは変わらないよ。甲殻獣を殲滅するだけだ」


 普段の口調は柔らかいが、そこはフィヨルトの人間だ。言う事は物騒だった。


「ただ問題は、後ろに何が居るかだね」


「いるでしょうな」


「わたくしもそう思います」


 その場にはメリアも双子も、ついでにフェンもいた。ファインとフォルンは何のことかは分かっていない。


「北の王国かな」


「どちらにしても同じことです。まずは氾濫の鎮圧でしょう」


 ヴァークロートの名は出さないものの、大公夫妻はその可能性を考慮していた。


「とりあえず今日は休息だ。3日後の早朝から始めるとしよう。軍務卿、指揮権は委ねるよ」


「了解いたしました」



 ◇◇◇



 戦闘が始まった。フィヨルトにおいては、すでに甲殻騎の集中運用による甲殻獣氾濫対策は確立されている。敵20000の内、中型は4000程度。小型の数や地形により変化はするが、中型に対する数差が1対50以下であるならば、問題ないとされている。今回はそれを少し超える程度だ。


「損耗は免れないだろうな」


 砦の上で『シルト・フィンラント』に騎乗する大公は呟いた。


「フィヨルトの宿命とは言え、辛いですね」


 右翼席のメリアが返す。彼らの役割は、流れ抜けて来た甲殻獣の掃討だ。ベアァさんも横に立っていた。


「ファイン、フォルン。よく見ておくんだ。これがフィヨルトだよ」


 敵と味方の両方を指しながら、大公が二人に告げる。そうだ、これがフィヨルトなのだ。



「接敵ですな」


 軍務卿が端的に状況を判断した。渓谷に朝焼けの光が差す頃、戦闘が始まった。


 3騎で1個小隊、これが戦闘時における甲殻騎の最小単位とされている。互いに背を守りあいつつ、迫る敵を倒していく。現在戦場に展開されているのは、27個小隊。それが27の暴力となり、甲殻獣に立ち向かう。


「やはり人為的か」


 大型個体が存在していないにもかかわらず、雑多な種類の甲殻獣が迫ってきている。それだけを見れば、規模は小さいなれど、伝説となっている200年前の氾濫にも思える。だが今回は違う。裏に何があるのか、どのような理由があるのか、それはまだ見えて来ていない。



「やはり、無傷とはいかないな」


 戦闘開始から3時間、擱座する甲殻騎が出始めた。まだ3騎ではあるが、一部が崩れれば雪崩が起きるのは戦場の必然だ。そして、砦に向けて浸透するように流れ込んで来る一団があった。


「軍務卿、やるぞ。ファインとフォルテはよく見ていなさい」


「はいっ!」


「わかりましたわ!」



 二つの機体が砦から飛び降り、蹂躙を開始した。



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