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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第39話 輪になって踊るのですわ!




「はっ、ははは。これは良い。お嬢様、ご武運を」


「別に戦いに赴くわけではありませんわ。証を頂戴するためですわ」


 ターロンズ砦はフィヨルトとフォートラントの国境であり、関所的な役割を果たしている。とは言え、通行税などは存在していない。ただ単純に誰がどちらに出入りしたのかを、記録に残しているだけである。


 砦には二つの部隊が駐留している。国境を接する両国によって配置されている中隊規模の、謂わば門番だ。


 そして、冒頭の豪快なおじさんは、フィンラント側の中隊長である。つい2か月ほど前に失意のままここを通った大公令嬢が、今回は自ら甲殻騎を操り、王都を目指そうというのだ。フィンラントの民として、これほど心躍ることもない。


「フィヨルト国境警備隊として、入門を許可いたします」


「お役目ご苦労様ですわ」


「はっ! 精一杯務めます」


 それは、兵たちも一緒であった。中には『金の渦巻き団』も含まれており、彼らは涙を隠そうともしなかった。



 ◇◇◇



 ターロンズ砦は関所であると同時に、小さな街でもある。兵が常駐しているのだから、生活拠点としての各種施設は整っているし、通行する商人や兵士たち、果ては外交のための貴人もここで一旦宿泊するのが山脈越えの基本となる。


 当然、そのための高級宿などもあり、たまの貴人の通行では両国を挙げての歓待なども催される。要は平和なのだ。


 しかし、この度の貴人、大公令嬢はちょっと事情がある。言うまでもない、例の一件だ。


「先日訪れた時は、歓待どころではありませんでしたわ」


「まあ……、そうだよね」


「でも今日は違いますわ。堂々と宴に参加させていただきますわ」


「大丈夫かなあ」


 フォルテとフミネの会話である。フィヨルトからの一行が甲殻騎で登場したことで、一応形式通りに歓待の宴が催されることになったのだ。



 ◇◇◇



「それにしても、これはまた」


 フミネが呟いた。


 現在、大公妃メリアを筆頭とした、大公家ご令嬢一行の歓待のはずなのだが、温度差が酷い。参加者は、フィヨルト、フォートラント兵から小隊長クラス、後は砦の顔役として、宿屋、食堂、物流など各組合から顔役が出席して、大体30名程だ。


 盛り上がっているのはフィヨルト側である。つい先日、騎士適性がないまま卒業し、その場で婚約破棄された帰り道にここを通っていたのだ。それが、あろうことか聖女と思しき翼を得て、堂々と甲殻騎でここに乗り付けた。これで盛り上がらない方がどうかしている。


 対してフォートラント側として、王太子の言を重んずるしかないわけで、フォルテは騎士適性を持たず、教養とソゥド使いとしての力は認めるものの、性格に難ありということになっている。そんな大公令嬢が颯爽と現れ、当たり前のように宴席に居るということが認めがたい。


「なあ、大公令嬢って、その、アレなんだろ?」


「そう聞いていたんだが、うーん」


 などというひそひそ声が交わされていた。


 そして、各組合の顔役たちは、どうして良いのか判断に苦しみながら、曖昧な笑みを浮かべているばかりであった。


 ちなみにメリアは素知らぬ顔だ。今回の王都行に関して、基本全部をフォルテとフミネにぶん投げている。もちろん二人の行状を観察する目的だ。



「どうにも盛り上がりに欠けますわ」


 ついにフォルテが立ち上がった。


「そうだね。ちょっと楽しくないかも」


 フミネも続く。


「どういうことですかな。対応にご不満でも」


 二人の言動に、流石にフォートラント側の中隊長も言葉を返してしまった。一触即発か?


「大いに不満ですわ。ですが理解はできますわ。わたくしの現状と中央の事情、どうして良いのか分からない、それがあなた方の現状でしょう」


「それは……」


 ど真ん中を真っすぐに、それが悪役令嬢たるフォルテの言動だ。もう、猫も被らないし、仮面を付ける必要もない。


「ならば主賓たるわたくしが、盛り上げますわ! フミネ!!」


「りょーかい。さっきも紹介してもらいましたけど、わたしはフミネ・フサフキ・ファノト・フィンラントです。胡散臭いですよね。聖女の名前と似ていて」


「まさか演武でも見せてくださるおつもりですかな?」


 中隊長が気圧されながらも、それでも食い下がる。



 づどんっ!!



 二人の震脚が轟音を発した。


「そうしても良いのですが、そうじゃないですわ。わたくしが参加する宴がこのようにしょぼくれているのが、それが面白くないだけですわ!」


「すみません、ウチの悪役令嬢が我儘で」


 フミネのフォローには悪意というか、イタズラ心しか込められていない。そして、すたすたと街側にある窓へと移動し、それを開け放った。


「砦のみなさーん! 一緒にお酒でも飲んで、盛り上がりませんかー!!」


 ソゥドを込めた大音声で、フミネが叫ぶ。


「場所は中央広場ですわ! 商人、商店の皆さまは酒とお食事をお願いしますわ! お代は全てフィンラント持ちですわ!!」


 フォルテも同様に続く。


「さあ、皆さま、行きますわよ!!」



 ◇◇◇



「しみったれた宴などまっぴらごめんですわ!! 砦の皆さま、わたくしが家の名に懸けて振舞いましょう! 飲んで、騒いで、賑やかして! 明日以降への活力を得てください、ですわ!!」


「さあさあ、皆さん、悪役大公令嬢のお通りですよ! 乾杯とか挨拶なんて面倒なことは省きましょう! 勝手に飲んで、食べて、騒いでください! 悪役令嬢はそれをお望みです」


 引き留める周りを他所に、二人の悪役はずんずんと、中央広場を目指す。夜空の下での宴こそ、フィンラントの真骨頂。


「いいか! 警備体制を確認しろ。そして、呼べるだけ呼べ。お嬢様はそれをお望みだ!!」


 フィヨルトの中隊長が通達を出す。その表情はとても楽しそうだ。


「こちらもだ。最低限の要員を残し、集めろ!」


 フォートラントの中隊長は微妙な表情だが、こちらもちょっと楽しそうだ。あの大公令嬢と噂の聖女が何をやらかすのか、興味が湧いて仕方がない。



 そして数分。一行は中央広場にたどり着いた。そこにはすでに多くの人たちがいた。おのおの持ち出した器を持ち、すでに酒が注がれていた。多くはないが、子供たちもいて、何が始まるのかと目を輝かせている。


 商店関係者が必死になって酒と食事を配りまくる。在庫など知ったことかという勢いだ。なにせフィンラントが持つと言ったのだ。とりっぱぐれはあり得ない。



「さあっ、始めますわ!!」


「イヤアアアアァァァァ!!」


 フォルテの言葉に続き、フミネの奇声が響き渡る。何だなんだと、周りがビビる。それでも二人は悪い顔で笑っていた。



 でんでこでんでこでんでこでんでこ。



 機動甲殻小隊の面々が太鼓の様なものを叩いていた。中には鍋を骨で打ち鳴らす者までいた。実はこれ、例の宴会で自分の歌がウケたもので調子に乗ったフミネが持ち込んだものだ。さらには、山登りの二日間で小隊のメンバーに無理やり教え込んだ曲だったりする。途中からは、小隊の連中も楽しそうにしてしまったのだから、フィヨルトの民はノリが良い。


 それを、この国境の砦でもぶつけるだけのことだ。



 でんでこでんでこでんでこでんでこ。



「いえあえーーーーー、いーえーあーえっ!!」


『いえあえーーーーー、いーえーあーえっ!!』


 フミネの導入に続き、フォルテを始めとした小隊の面々も唱和する。もちろんメリアもだ。


『はいっ!!』


 そして、フミネたちが歌い始める。要は、色んな事があるけど、色んな立場があるけど皆で歌おう、踊ろう、輪になって。そういう歌だ。長野っぽく。


 リズムは比較的単調と言えるだろう。だから良い。砦の皆が自然に肩を動き出す。表情が変わっていく。心が踊りだす。


 いつしか、皆が盃を掲げながら、音頭を取り、歌い、舞い始めた。輪になって。



「わたくしの参加する宴がしょっぱいなどと、このフォルフィズフィーナ・ファルナ・フィンラントが許しませんわ!! さあ、食べて、飲んで、歌って、踊ってくださいませ!!」


 フォルテのソゥドを込めた声が広場全体に届く。


「なんだこれ」


 フォートラントの中隊長の呟きは真っ当であったが、歓声にかき消されてしまっていた。



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