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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第38話 山を越えて行こうよ




 ずうぅぅん、ずうぅぅん。



 甲殻騎の織りなす歩行音が響き渡る。3騎で構成されたそれは、フィヨルトの軍制では『機動甲殻小隊』と呼ばれるユニットだ。通常の甲殻小隊と異なり、随伴歩兵は傍に存在せず、また輜重も連れていない。その代わりに、甲殻騎にはその図体に似合った巨大な背嚢が担がれ、その中に各種の食料、野営道具、薬品などが収められている。ちなみにスラスターの類は付いていない。そんなものは存在していない。


 3騎の甲殻騎に操縦者たる騎士がそれぞれ2名づつ、合計6名。そして、その両肩に2名づつ地面を歩いていない随伴歩兵が乗っていた。つまりは『甲殻騎デサント』である。ただしデサントのデメリットは薄い。その歩兵たちはソゥドの使い手であるからだ。揺れを気にしない程度には鍛えられ、何か予期せぬことがあっても、地上5メートルくらいの高さからの降騎など簡単にこなしてしまうからだ。


 総勢3騎、12名。フィヨルトの誇る『機動甲殻小隊』である。長距離高速行軍を行うために、騎士適性が高く、またソゥドの大きい者が選ばれるエリートなのだ。



 ◇◇◇



 最初、フォルテとフミネがオゥラくんにリュックを背負わせて突撃しようとしたところ、大公とお妃はそれぞれの理由でそれを押しとどめた。


「ちょっと待て、二人で行くつもりか!?」


「アレッタを誘おうかと思っていますわ」


「宿屋の看板娘を連れて行こうとしないでくれ」


「……失念していましたわ」


 気合をいれていたフォルテがちょっと反省する。根は良い娘なのだ。悪役ではあるが。


「わたくしを連れて行きなさい」


「メリア!?」


 お妃、メリアが乱入してきた。


「わたくし、ちょっと王都に用事があります。良い機会です」


「ライドか……」


 そう、フォルテの弟でありながら、婚約破棄騒動の時に王太子側に立っていたファーレスヴァンドライド・ファイダ・フィンラント。本来ならば、次代の大公である。彼はフォルテの帰郷以後、連絡が取れていない。


「何か事情があるとは思うのだが」


「違います。自分のしでかしたことに気づいて、逃げているだけです」


「分かるのかい?」


「息子ですから」


 夫婦の会話に付いていけないフミネとフォルテを他所に、大公とメリアにより、あれよあれよという間に臨時で機動甲殻小隊が編成された。


 そして3日後。


「僕も行きたいー!」


「わたくしもいきますわー!!」


 泣きわめき、取り押さえられた双子を後に、小隊は出発した。



 ◇◇◇



 フィヨルタの北を北西から南東に流れる大河、ロンドル。港は整備され、甲殻騎搬送用の木造大型船が何隻も係留されていた。一艇につき一騎、3隻が南東方向へ進む。行き先はフィヨルト大公国の入り口たる都市、バラァトである。


 船を降り、そこで一泊した小隊は翌朝、移動を開始する。目指すは東にあるフォートラント王国とフィヨルトの地政的国境、フォータル山脈である。


 今より400年程前、フォートラント王国より事実上放逐された、当時の王弟にして初代フィヨルト大公が乗り越えた山脈。それをフォルテとフミネは逆方向に突き進む。


「行きますわよ!」


「行くわよ!」


 メリアを右肩に乗せ元気に歩き出すオゥラくんを追従する2騎は、早くも精神的に疲れていた。二人が操縦するオゥラくんの無尽蔵な力を知る故に。



「ふんふふ~ん」


 フミネの鼻歌が聞こえる。先日の勇ましい歌とは違い、のんびりしていながらもこちらの世界では、ペースの速いテンポだ。とある日常系アニメのOPだったりする。それをフォルテとメリア、そして左肩に乗る護衛の女性兵士も何となく聞いていた。肩がちょっと揺れている。


 すでに小隊は山脈に造られた道に差し掛かっている。400年前と異なり、ある程度整備されたつづら折りの登り道だ。本来ならば、そこをゆっくりと進んでいくはずなのだが、そこはフォルテである。


「とうりゃー、ですわ!」


 ヘアピンカーブの手前で、跳躍し、上の段に着地し、そこで何らかの技を繰り出す。掟破りのショートカットだ。


「ふんふふふ~ふ~」


 これもまたフミネに誑かされた特訓であった。すなわち、日々これ鍛錬。旅程もそれにあたる。そこには両肩に乗る2名も含まれる。右肩のメリアは涼しい顔である。伊達にフサフキを名乗ってはいない。大変だったのは左の女性兵士だった。青い顔が紫色になりかけていた。


 そこへ、おっちらえっちらと後続の2騎が追い付いてくる。その両肩に乗った兵士は、オゥラくん担当でなくて、本当に、本当に良かったと心から思い、同僚に同情した。上手いこと言った。



 そうして道中で2泊。この手のお話でありがちなトラブルもなく、だがそれでもフィンラントの3人を除いた全員に肉体的、精神的ダメージを残しつつも、ついに一行は国境にたどり着くことになった。


「甲殻獣にも襲われなかったし、襲われてる馬車を助けることもなかったね。うーむ」


「なんですのそれ?」


「日本ではよくある話なんだ」


「ニホンは聞いた以上に物騒なのですわ」


「甲殻獣、いないけどね」


 フミネの大嘘であった。悪役聖女の面目躍如か。



 そして見えてきたのはフォータル山脈の一角、ターロンズ砦。またの名を国境の門である。



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